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2000.1.2

2000年のイエス・キリストは
黒人で、しかも女性


黒い肌にまとった白と褐色の衣が淡いピンクの背景に浮かび、短いドレッドロックの額にはいばらの冠。その黒い瞳は悲しげでもあり、また何もかもを知りつくしているかのように確信的でもある。しかしながら豊かに厚い二枚の唇は、あえて沈黙を選んでいるかのように閉じられ、胸の前で交差した両手は、まるで見えない外敵から自らの心臓を守るかのように、固く衣を押さえている。だが決して何者をも恐れていないその表情は瑞々しい少年のようでもあり、また若い女性のようでもある。


これはカンザスの新聞、ナショナル・カソリック・リポーター紙が昨年、世界規模で募集した“2000年のイエス・キリスト”肖像画コンクールの優勝作品
“ジーザス・オブ・ザ・ピープル”(画:ジャネット・マッケンジー)を、なんとか文章で表そうとしたもの。


そう、このイエス・キリストは黒人。


ナショナル・カソリック・リポーター紙は黒人新聞ではないし、19ヶ国、1678点に及んだ応募作品のなかには当然、あらゆる人種のイエス・キリスト像が含まれていたにもかかわらず、その中からこの作品が選ばれた理由はただひとつ。これが真に美しく、素晴らしい作品だから。


これまでも多くの黒人画家がありとあらゆるブラック・イエスを描いてきた。十字架を背負うブラック・イエスや最後の晩餐のテーブルに着くブラック・イエス…。ところが今回の“ジーザス・オブ・ザ・ピープル”は、ヴァーモント州に住む51才の白人女性、ジャネット・マッケンジーによって描かれている。


ブラック・ジーザスのイメージはごく自然にやってきたし、しかも彼女が使ったモデルは近所に住む若い黒人女性だとジャネット・マッケンジーは言う。


ダーク・スキン・イエスがひっそりと、しかし存在感たっぷりに佇む静謐なキャンバス。その背景に使われている淡いピンクは、女性の優しさを表していると共に、血の色でもある。シンプルなその背景には、完璧な調和を表す“陰と陽”のシンボルと、知識とネイティヴ・アメリカンへの敬意を表す1枚の黒い羽。(彼女の住むヴァーモント州にはネイティヴ・アメリカンが多いのだろう)


そしてジャネット・マッケンジーは、なにより彼女のアフリカン・アメリカンの甥のためにこの絵を描いたと言う。(白人である彼女の甥が黒人ということは、彼女の兄弟姉妹の誰かが黒人と結婚しているということだろう)


ジャネット・マッケンジーがこれまでに描いた絵や、彼女の持つ宗教画のコレクションの中に、まだ9才か10才になったばかりの甥は、自分と同じ肌色の人物を見つけたことがなかったのだ。小さな子供にとって、これはイエス・キリストに限らず、全てのヒーロー(TVアニメの主人公から大統領に至る全ての模範人物)は白人であり、決して黒人ではないというイメージの深層心理への刷り込みを意味する。


しかしながら、キリスト教徒でも黒人でもない私がこの絵を素晴らしいと思う理由はただひとつ。本当に美しいから。


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