NYBCT

2003/03/31



ニューヨークのイラク人
イラク攻撃

 ※今回の記事は<日々の考察>にアップ済みのものを編集したものです




■デモを見つめるイスラム教徒たち


3月22日(土)ニューヨークでは、これまでで最大の反戦デモが行われた。警察発表では12.5万人、主催団体の発表では25万人が参加。このデモ隊がブロードウェイの30丁目前後に差し掛かった時、沿道にはたくさんのアラブ系の男性が立っていた。このあたりの卸売店に勤めている人たちだ。みんな腕組みをして、じっとデモ隊を見つめていた。

ふとビルの2階を見上げると、窓が開いていて、そこに若いアラブ系の夫婦と小学生くらいの女の子がいた。男性は白いTシャツになにかメッセージを書き込んでいて、それをデモ隊に向かって嬉しそうに振っていた。その後ろには黒いベール姿の女性がにこにこしながら立っていて、女の子はデモ隊に手を振っていた。



■戦争肯定派


日曜日には戦争肯定派のデモがあった。テレビ・ニュースで見ていると、星条旗を頭に巻いた女性がインタビューに答えていた。
「一人息子を戦争で亡くしたの。だから、これ(戦争)がどういうことかは分かっているわ。(戦争は)ひどいことではあるけれど、成さねばならないのよ」。



■都市の破壊


戦争でひっかかることのひとつに、都市の破壊がある。これは人命に比べると勿論二次的なものではあるけれど、とても気になる。

都市(街、村)は、建物・道・橋といった建造物の集合体なわけだけれど、そのひとつひとつが人の手によって造られている。しかも、それぞれの土地や国の気候風土・歴史・文化に沿ったものが造られている。つまり、どの都市も唯一無二のものであり、そこに暮らす人たちにとってはかけがえのない場所、アイデンティティの一部なのだと思う。それが戦争で破壊されるのを見るのは、なんとも忍びない。



■史上初の地上戦ライブ中継


今、CNNを付けたら、これはなんなのだろう。地上戦のライブ中継をしている?米英軍の戦車がイラク軍を攻撃したのだという。道に米英兵が横一列に並んで這いつくばって相手の様子をうかがっている。

それをCNNのスタジオで見ながら、キャスターのアーロン・ブラウンと軍事アナリストがコメントをつけている。事態が膠着しているのか、アナリストが、米英軍はこの場をもっとうまく捌くべきだと言っている。キャスターが、こういった地上戦の生中継はジャーナリズム史上、初のことだと言っている。もう頭が痛くなってきた。



■ ニューヨークのイラク人


ニューヨークタイムズに、在ニューヨーク・イラク人のことを書いた記事があった。それによると、ニューヨークにはイラク人は多く見積もっても2000〜3000人以下しか居ないらしい。ホワイトカラーが多く、ブルックリンにあるアラブ系コミュニティではなく、中流・上流層が住むマンハッタンのアッパーウエストやアッパーイーストに住んでいるとか。しかもユダヤ教、キリスト教信者が多いと。アメリカはイラク人でイスラム教徒じゃない人も敵と見なしているのだろうか。

いずれにしても、どれもこれも知らなかったことばかり。戦争をしている相手のことを、私たちはまったく知らないのだ。毎日メディアがあふれるほどの戦争情報を流しているけれど、肝心なことはまったく教えてくれない。

実は、隣人がイラク人だということを今日、初めて知った。ちなみに、ここはハーレムで、彼女はアラブ系には見えない顔立ち。イスラム教徒なのか、ユダヤ教徒なのか、それともクリスチャンなのかは知らない。9.11テロ事件のあとにアラブ系(に見える人)への嫌がらせが頻発したけれど、外見で人を判断(区別・差別)することには意味がないということのサンプルだ。



■33年を経て


サイトのトップページに、マーヴィン・ゲイ「ホワッツ・ゴーイング・オン」の歌詞と訳詞を載せた。この曲はベトナム戦争時に書かれた反戦歌。メロディがスウィートだから、歌詞を知らないとラブソングに思えるれど。

今日、この曲を改めて聴いてみて、歌詞の内容がそっくりそのまま現在の状況に当てはまることに驚いた。違いは核兵器が生物化学兵器に変わっているくらい。

曲が書かれた1970年から33年。人間は( or アメリカは)なにも変わっていないということ?



■アメリカの危機感


一昨日に5人の米兵捕虜がテレビに写されてから、アメリカ国内の「あっという間にビクトリー!」な気配が、徐々にトーンダウンしてきた。

5人のうちのひとりは30歳の黒人女性で、2歳の娘がいるという。しかも戦闘兵ではなく補給兵。その女性がテレビカメラの前で、英語を話すイラク兵に名前や出身地を訊かれて答えている映像。これは圧勝を信じていたアメリカ人にとっては強烈だったと思う。

加えて、昨日から砂嵐で米英軍は足踏み状態で、イラクが生物化学兵器を使う兆候も見えてきた。

最初から反戦運動が激しく、それに対して肯定派もデモを行ったりと、国をあげての大騒動になっている今回の戦争だけど、やはり遠い中東で行われていることから、これまではどこか<よそ事>であったのかもしれない。それがここにきて、アメリカも初めてこの戦争を<自身の危機>と捉え始めているのかもしれない。



■テロの可能性@NY


ニューヨークでは相変わらず<オペレーション・アトラス>と名付けられた警護プロジェクトが続いている。もちろんテロ防止のためで、そこら中に兵士や警官が立っているし、ヘリコプターが上空をパトロールしている。これには毎週500万ドルを費やしているのだ。

けれど、しかし。
今、ニューヨークでテロは起こるだろうか?テロリストもバカではないと思う。アメリカ全土でもっとも反戦派の多いニューヨークで今テロをやってしまうと、国際世論の大きな反発を買うのは目に見えている。

もっとも、シラク大統領がゴリゴリに反戦(反アメリカ、か)を貫いているフランスでテロがあったわけだから、こんな予想は甘いか。

そして、ブッシュが戦費の補正予算を要請した。
747億ドル!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
日本円にして9兆円!!!!!!!!!!!!!!!!
教育や福祉の予算がこんなにカットされているのに!!
こんなムダ使いされるなら、税金払うの止めようかと思う。



■ テロリストを育てている国


「戦争の遺恨は三代続く」という言葉をどこかで聞いたことがある。つまり、戦争で親を亡くした者は、それを自分の子供に語り継ぎ、孫の代までは恨みが続くということ。

米英にもすでに43人の戦死者、7人の捕虜が出ている。家族の気持ちはいかばかりかと思う。恨みは確実に三代、もしくはそれ以上残るだろう。けれど実際問題として、戦死者の孫が今から20年後にイラクまで出向いてテロを働くことは、まず考えられない。

けれど、今、この瞬間に空爆で親を亡くしているイラクの子供はどうだろう。今はただ泣いているだけの子供をテロリストにしてしまうのは、テロの伝統を持つイラクなのか、その子を孤児にしてしまったアメリカなのか。



■“卑怯”な戦法


CNNの特派員が「未確認情報ながら米軍の7人の捕虜が処刑されたらしい」と言った。この<未確認情報>というのが、家族にはもっとも辛いのではないだろうか。ちなみに捕虜の中の唯一の黒人であり、なおかつ唯一の女性であるショシャーナ・ジョンソンの家族は、彼女が捕虜となったことを軍からの通達の前にテレビのスペイン語チャンネルの報道で知ったという。なんということだろう。

けれど、捕虜が処刑されることも、戦争なのだから有り得ること。イラク軍が投降を装ってアメリカ軍を攻撃するという<卑怯>な戦法を取ったと報道されているけれど、これも戦争なのだから当然有り得ること。そして、誤爆も、これもまた有り得ること。



■デモに巻き込まれないように注意して下さい。


ニューヨーク総領事館は、9.11テロ事件後の対応のまずさを強く非難された。その後、総領事館は在ニューヨーク邦人にテロ、戦争などに関するお知らせメールを送ってくるようになった。以下は今日、届いたもの。

<<< 在ニューヨーク総領事館からのお知らせ >>>

在留邦人の皆様へ
2003年3月27日

安全上のお知らせ
   
マンハッタンで進行中の反戦デモについて下記の通りお知らせします。

1.27日(木)午前9時30分現在、5番街の51丁目付近で、約100人規模の反戦デモが行われています。警察が規制し逮捕者もでており、付近は一部交通止め になっています。

2.(1)デモに巻き込まれないように注意して下さい。

 (2)現在デモが行われている場所に限らず、他の場所においても随時反戦デモがおこなわれる見込みといわれていますのでご注意下さい。以上

> デモに巻き込まれないように注意して下さい。
そうですかー、総領事館の人もこれまでのデモに参加する日本人の姿は見ていると思うんだけれど、やはり、ここまで他人事な態度を貫き通すのですねー。これって、なんだか、すごいと思う。

もしデモに参加して逮捕されたり、ケガしたりしても、「だから行くなって言ったでしょ」って言われてしまうんだろうな。もちろん、デモに参加するのは自己責任で、総領事館になんとかしてもらおうとは誰も思っていない。けれど、在ニューヨーク邦人が実際にデモに参加しているという事実がある以上、総領事館はそれも認識しておく必要があるのではないかしらん。いかがでしょう、総領事館のエラい方。



■ 在ニューヨーク日本総領事館2


上記、在ニューヨーク日本総領事館の記事について読者の方から、あれは<他人事>どころではなく、なにかあった際に責任を追及されることを恐れて保身に汲々としているのだ、という旨のメールをいただきました。9.11テロ事件直後に総領事館で体験されたひどい対応の具体例も書かれていました。

私自身は9.11事件の際には総領事館のことなど考えもしませんでした。他の長期滞在者や永住者も多くは同様だったようです。テロ事件後しばらくして総領事館の対応のまずさが取り沙汰され始めてから、ああ、そういえば日本人なんだから総領事館になんらかのヘルプをしてもらうのが本筋?などと考えた次第です。それだけふだんから頼りがいのない存在だったのでしょうね。でもああいった異常事態峙には、まさに駆け込み寺でなくてはならないわけです、特に勝手のわからない短期滞在者や観光客にとって。

そう考えると、<総領事館なんて単にパスポートなんかの延長手続きをしているだけ>という批判も充分的を得てますね。



■戦争の写真


連日、従軍フォトグラファーによる写真がCNNや新聞を賑わせている。プロのフォトジャーナリストが命がけで撮っているだけあって、どの写真も見事な迫力を持っている。戦場という異常な場でもこれだけの写真が撮れるということが、やはりプロのプロたる所以だろう。どんな職種であれ、本当のプロフェッショナルは真の尊敬に値する。

これらの写真がデイリーでアップされるのは、ひとえにデジカメ&インターネットの威力だろう。少し前まで報道写真にはデジカメは使われていなかったけれど、9.11テロ事件でデジカメはいわば報道写真デビューを果たしたらしい。いつ、どのビルが崩れ落ちてくるかも分からず、しかもあの粉塵舞い散る中ではフィルム交換はできなかったのだ。でも、イラクの通信状態はどうなのだろう。大容量の写真をどうやってこんなに大量に送れるのだろう?もしかして撮影してる時間よりも送信してる時間のほうが長い?

ところで、最初に<見事な迫力>と書いたけれど、アメリカにとって都合の悪い写真は当然カットされているのだろうな。その一方で今日のニューヨークタイムズ一面を飾った写真はと言えば…。

茶色い地面に横たわるイラク兵の遺体と、それを背にして立ち去るひとりの米兵。色や構成など、写真としてはまさに素晴らしい出来。でもキャプションには、待ち伏せしたものの逆に米兵に殺されたイラク兵、みたいなことが書いてある。タイトルも、そのものずばり<待ち伏せ>。

だいたい、死体の写真なんて朝いちばんに見たくない。いくらそれが戦争の実態だと言われようとも、こんな写真、戦争特集ページならともかく、一面に載せる意図はなんなんだ!と少々気分を害してしまった今日なのだった。



■長引く予感


昨日は友人の赤ちゃんの公園デビューにお供した。生後一ヶ月で初の公園参り。もっとも当の本人はずっと寝ていて、母親である友人は「これじゃ家の中にいるのと同じ」と言ったけれど、やはり日光浴は赤ちゃんも気持ちいいでしょ。

ハーレムの小さな公園で、天気は良いし、他にも子供連れの人たちがいて、3歳くらいの女の子は若いお父さんに「ブリアナ!もう帰るよ!」と呼ばれても走り回っているし、うしろのベンチにはホームレスが寝ていて、木にはリスがいて。あぁ、のどかで、なんていい気分。こんなの久しぶりかも。

やはり戦争で疲れている。ニューヨークが戦場になっているわけではないし、レストランもミュージカルも映画も通常どおりのスケジュールだし、知り合いがイラクにいるわけでもない。それでも気持ちが疲れている。外国人でこれなのだ。アメリカ人なら反戦派であれ、肯定派であれ、もっと緊張・疲労しているだろう。

戦争とは、やはり人を疲れさせるものなのだ。しかも景気も悪くなるし。そして今回の戦争も、あたりまえだけど、アメリカの当初の予想より長引きそうだ。(2週間でカタがつく戦争なんてないっての)



■デフ・ポエトリー・ジャム on バーンズ&ノーブル


ラッセル・シモンズと5人の詩人たちが、ニューヨークの書店でパフォーマンスをした。もちろん開戦前から予定されていたものだけれど、時節柄、内容はほとんど反戦詩。充実していました。

リポートと写真をeigaf@n.comに掲載してあります。(写真は警備のブレイズヘアのおねえさんに怒られながらの盗み撮り。取材は時にツラい)



■戦死者のプロフィール


3月29日付 アメリカ軍の戦死者25人、捕虜・行方不明16人、計41人

41人中

黒人 6人
ラティーノ 6人
ネイティブアメリカン・ホピ族 1人
フィリピン系 1人

女性 3人

18〜20歳 7人 (アメリカでは21歳で成人だが、投票は18歳から)
21歳〜29歳 20人
30歳〜39歳 11人
40歳、42歳 各1人
不明 1人

※以上はCNNのリストを元にしていますが、人種・エスニックに関しては私が写真・名前・記事内容から推測したものですので、誤りも有り得ます

19歳の女性兵士(白人)がひとり行方不明だ。これはやはり、写真を見ると胸が痛くなる。19歳。ティーンエイジャーの女の子…でも、これは本人にはありがたくない表現かもしれない。本人は一人前の兵士としてプライドを持って出兵したに違いない。

女性を前線に送ることに関してはアメリカ国内でも議論がいまだにある。けれどあくまで本人の選択なのだから、入隊したからには前線送りも当然だろう。

けれど、年齢はどうだろう。若いから体力的には戦闘に向いているだろうけれど、精神的にはどうなのだろうか。

犠牲者の家族への取材が増えている。堪え忍ぶ母親、涙ぐむ姉妹、父親の遺影を抱いて気丈に敬礼する10歳の男の子。

しかし、こういった報道を見て、なおいっそうイラクへの反感や怒りを募らせるほど単純な人っているのだろうか。イラクでも19歳の少女は亡くなっているはずだ。



■恐怖心の植え付け法


自爆テロで米兵5人が亡くなったと、今、ニュースで言っている。

兵士を単に数量として捉えた場合、アメリカ軍にとって5人は大きな数ではない。けれど、この自爆テロが米兵や世界に与える影響は大きいと思う。

アイリッシュとイタリアンばかりの小学校で育った黒人男性に話を聞いたことがある。白人の中では最下層と位置付けられていたアイリッシュとイタリアンは、自分よりも下層のグループとして黒人を虐めてきた歴史があるのだ。

グループでかかってくる白人を相手に孤立無援でケンカすると、多勢に無勢で普通は勝てない。けれど、とことん追い詰められると恐怖心を失い、殴られても、ケガをしても、全く気にならなくなり、相手に死にものぐるいでかかっていくことになるらしい。そういう<怖いもの知らず>な態度は、逆に相手に恐怖心を与えるそうだ。その人はそれによって白人99%の子供時代をサバイバルしたのだ。



■戦車に追われて


101丁目にあるキューバン・チャイニーズ・レストランで食事をしていたら、夫が「ほら」と私の背後を指指した。テレビがあってCNNが写っていた。バグダッドはいつものように爆撃を受け、黒煙を上げていた。

あの時、あの黒煙の中で誰かが死んでいたわけで、それを見ながら食事をするというのは、とても奇妙な気分だった。これ、まさにスナッフ映画ではないか。それともリアリティTVか。

*スナッフ映画=本物の殺人現場を撮影した変態映画
*リアリティTV=今、アメリカでブームとなっている素人が出る番組。「サバイバー」など。

次に振り返った時には、従軍フォトグラファーが撮った写真が写されていた。両親と子供2人が手をつなぎ、背後から迫り来る戦車から逃れようと必死で走っている写真。場所はわからない。キャプションが読めなかった。

父親はアラブの民族衣装ではなくおしゃれなシャツにズボン姿で、小学生くらいの女の子は制服を着ていた。白いブラウスにチェックのスカートだったように思う。つまり、わたしたちと同じ服装だ。不思議なもので、黒いチャドルの女性を見るとエキゾチックに思えるばかりで、いったいどんな生活を送っているのかが想像できない。けれど、この親子のように自分と近い外観だと妙なリアリティを感じる。

父親はホワイトカラーだろう。家はもちろん、職場も、女の子の通っている学校も背後に捨てて、とにかく戦車から逃れようとしているのだ。ごく普通の生活をしている人たちが、ある日とつぜん街に現れた戦車によって、これまで築いてきた生活の全てを置き去りにしなければならなくなるのだ。



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