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2004/01/19




キング牧師デーに意義あり?


1)「キング牧師デー」とは


 毎年1月の第3月曜日は「キング牧師デー」。正式名称は「Dr. Martin Luther King, Jr. Day」といって、アメリカには年間たった10日しかない連邦祝日(*)のひとつ。公民権運動のリーダーとして活躍し、全世界に多大な影響を与えたキング牧師の誕生日1月15日を祝うためのものだが、土日との3連休にするために第3月曜日に制定されている。


 「キング牧師デー」は、キング牧師が暗殺された1968年に提案されてから、1983年に議会を通過するまで15年もかかっている。通過したあとも祝日として導入しない州がいくつもあったり、「公民権運動の日」として導入していたニューハンプシャー州がとうとう「キング牧師デー」と本来の名称に変えたのは、なんと1999年。


*全国的な祝日だが、最終的には州ごとに祝日(=連邦職員は休まなければならず、学校や銀行などの公的機関も休む。民間企業は任意)とするか否かが決められる。アメリカでは州の独立性が尊重されるため、政府決定で全国一律に施行される法律は少ない。このシステムを利用し、いくつかの州が言い訳を作り上げて「キング牧師デー」を祝日としないという事態が起きたが、年々批判が高まり、現在はすべての州で祝日となっている。しかし中庸的な独立記念日や感謝祭などと違い、黒人史や公民権の歴史に重要性を感じない移民経営者による民間企業などでは休まないことも多い。なお、英語では Federal Holidayというが、National Holiday (国の祝日)と呼ぶことも多い


 この祝日制定がこれほど困難をきわめた理由は、「黒人の誕生日を祝日としてなど祝えるはずがないだろう」という白人の抵抗だった。もっとも、こんな本音は公式の場では聞かれず、「祝日を増やすと州や地方行政の支出が増える(当日働く州職員や市職員に休日出勤手当てを支払わなくてはならない)」ということだったらしい。(もう少しマシな言い訳はなかったのだろうか)



2)「キング牧師デー」の祝い方


 これほど苦労して勝ち取った祝日だから、黒人はこの祝日を、それはそれは大切に祝う。「キング牧師の日」が近づいてくると、学校では子どもに師の行跡を教え、あの有名なスピーチ「私には夢があるI have a dream」を唱えさせたりする。(白人の多い州でもしているのかな?)


 さて、今年も「キング牧師デー」が間近に迫り、ハーレムYMCAでも子どもたちにキング牧師について習わせた。毎年のことなので、すっかり覚えてしまっている子どもも多く、10歳の女の子ブリタニーは、「アァ〜イ・ハァ〜ブ・ア・ドォリィ〜ム」と、キング牧師独特の節回しを物まねしてくれた。ワシントンD.C.での演説シーンをビデオでさんざん見せられているのだろう、かなりうまくて笑えた。子どもにとっては歴史なんて、いつも退屈なものだ。



3)黒人と白人で「すべての人種」?


 さてさて、本題はここから。この日のクラスは、じつはスパニッシュハーレムから通ってきているラティーノ(プエルトリコ系)の子どもたちで占められていた。ラティーノがなんであるかは、もう何度も書いているけれど、簡単に言えば「スペイン語を話す」という条件で括られたグループだ。人種的には、白人(スペイン人)、アフリカ黒人、先住民(インディオ)の血が混じり合っているわけだけれど、それぞれのグループの純血もいる。つまり、外観はラティーノ特有のミックス顔であったり、黒人であったり、白人であったり、インディオだったりとバラバラ。インディオ系のなかには、日本人かと思うような顔立ちの人すらいる。


 とはいえ、ニューヨークのラティーノにはプエルトリコ系とドミニカ系が多く、彼らの多くには黒人の血が流れている。だからラティーノも「キング牧師の日」を祝う。そういった理由により、私はハーレムでプエルトリコ系の子どもたちと、キング牧師について子ども向けに書かれたプリントを読んでいたわけだ。


 いわく「キング牧師はすべての人種を…」、いわく「キング牧師は黒人と白人の融合を…」。


 ……なるへそ。キング牧師の時代、彼の地元アラバマ州にはおそらく黒人と白人しかいなかったのだろう。だから「黒人と白人」で「すべての人種」となるのも、致し方なしか。


 そして2004年のニューヨーク。黒人の血が混じっているとはいえ、自分たちを「ブラックではない」、または「ブラックでもある」けれど、「ラティーノだ」と認識している子どもたちに、「“黒人と白人”で“すべての人種”」というテキストを読ませている。


 読後の作文に「白人と黒人で…」を、そのまま書き写した8歳のティファニーは、アジア系のような顔立ちで、白人のように色白で、柔らかい直毛を背中まで伸ばしている。そういえば(?)、この国にはアジア系やネイティブアメリカンだって暮らしているぞ。


 キング牧師の成し遂げたことは確かに偉大で国民の祝日に値するし、お札になってもいい人物だと思う。人種やエスニックを問わず、すべての子どもが彼のことを学ぶべきだろう。でも、そろそろテキストを修正する時期にきているのではないかな。(キング牧師本人が言わなかったこと、しなかったことを、いったいどう加筆するか? 難しい作業だけどね)


「キング牧師デー」の詳細がわかるサイト(英語)
http://www.infoplease.com/spot/mlkhistory1.html


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