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2004/04/21




ビジュアルでハーレムの今を知る
ハーレム写真集4種



素敵な建物。けれど、この一帯は、現在はハーレム随一のドラッグエリア。ハーレムの歴史の複雑さよ。
●『ハーレム:ロスト&ファウンド』


 ここ数年、ハーレムをビジュアル化した書籍、つまり写真集が静かなブームとなっている。ことの始まりは2002年に出版された『ハーレム:ロスト&ファウンド』。


 ハーレムはそもそも中産階級、上流階級の白人のために造られた街なので、今でもそこかしこに古いヨーロッパの街並みを思わせるメルヘンチック(?)な家や、凝ったゴシック様式の壮麗な建物がある。映画やドラマに登場する「ニューヨークの裕福な白人の住居」が、じつはハーレムロケだったということも多い。


 『ハーレム:ロスト&ファウンド』は、それらハーレムの目を見張るような建築物の数々を撮影し、ハーレム在住の歴史家/地域保存家のマイケル・ヘンリー・アダムズが詳しく解説した写真集。建築、またはハーレムの歴史に興味がある人には貴重な一冊。


Harlem: Lost and Found
by Michael Henry Adams, Paul Rocheleau
Photographer: Lowery Stokes Sims
$65.00
Publisher: The Monacelli Press; (October 2002)




とにかくオシャレ。ここまでオシャレなハーレム本はこれまでなかった。インテリアを替えたいときには参考になる。
●『ハーレムスタイル:新アーバン美学のデザイン』


 上記『ハーレム:ロスト&ファウンド』とほぼ同時に出されたのが、『ハーレムスタイル:新アーバン美学のデザイン』。黒人の、とくに女性が好むアフリカン・テイストのインテリアを、都会的に徹底的に洗練させた写真集。


 出版された当時、メイシーズデパートではこの本とのタイアップでエスニック調の食器をディスプレイしていた。ハーレムを訪れたことのないニューヨーカーや観光客も、この写真集と食器を買っていたのだろうか。


Harlem Style: Designing for the New Urban Aesthetic
by J. Roderick N./Arango Shade (Author)
$35.00
Publisher: Stewart, Tabori & Chang; (October 1, 2002)




左下の男性が、前出「ハーレム:ロスト&ファウンド」の作者マイケル・ヘンリー・アダムス。右下はグラフィティアーティストのブレッド・クック・ディズニー。

●『スピリット・オブ・ハーレム:アメリカでもっともエキサイティングな街のポートレイト』


 2000年に『クラウン(王冠)』という写真集が出され、話題となった。教会の日曜礼拝に出かける黒人女性は、ドレスもさることながら帽子のデザインに凝りに凝る。大きなつば、羽飾り、スパンコール、チュール……。ご自慢の「チャーチハット」を被った女性約50人の白黒ポートレイトに、それぞれの女性が語った帽子への愛情と情熱の短い物語を添えた写真集だ。ところが帽子の話は予想外に奥が深く、黒人女性のたどってきた歴史や、宗教と黒人の関係性までを含んでいる。つまり、見て楽しく、読んで味わいのある写真集だった。



 その『クラウン』の作者が同じ手法でハーレムの人々を写し出したのが、昨年末に出された『スピリット・オブ・ハーレム:アメリカでもっともエキサイティングな街のポートレイト』。


 今回は店舗経営者、アーティスト、教会関係者、文筆家など、いずれもユニークなハーレマイト(=ハーレムっ子)約50人の白黒ポートレイトに、それぞれの人物が語ったハーレムへの思いが添えてある。


 ハーレマイトといっても、人種/エスニックも、年齢も、職業も、ハーレムとの係わり方もさまざま。一枚一枚の写真と文章から、ハーレムの多様性を伺い知ることができる。


ゴージャスな帽子とコート姿でハミルトン将軍の邸宅前に立つ女性の写真と、彼女のハーレム描写:

 ハーレムにはすべてがあるの。
 地下鉄にはトランペットを吹いている男性がいるかと思えば、1ドルを乞う者もいる。歩道には6人のアフリカン女性がいて、ブレイズを編まないかと声をかけてくる。シャツの前をはだけ、ズボンをずりさげ、頭のなかで鳴っている音楽に合わせて踊っている少年。ひとかたまりの男たちの側を通り過ぎれば、「ベイビー、今日はまたきれいだね」と声がかかる。
 自宅のドアから一歩踏み出したとたんに、ハーレムのすべてが私の目の前にあるの。そこには美しさと詩があるのよ。
ラテ・ターナー、51歳、不動産業者
(訳:堂本かおる)



Spirit of Harlem: A Portrait of America's Most Exciting Neighborhood
by Craig Marberry (Author), Michael Cunningham (Photographer)
$27.50
Publisher: Doubleday; (November 18, 2003)





この少年はオールドハーレムに属するのか?
はたまたニューハーレムのメンバーなのか?
●『せとぎわのハーレム』


 今、ハーレムは再開発の真っ只中にある。そこら中で工事の音が鳴り響き、毎日のように古い何かが取り壊され、新しい何かが建てられている。そんな新旧せめぎ合いのハーレムを切り取った写真集が『せとぎわのハーレム』。


 フォトグラファーのアリス・アティーが自転車でハーレムを走り回って写したものは、閉店してしまった小さな個人商店、その壁に描かれたグラフィティ、塗装のはがれ落ちた柱、店舗の脇に生えた雑草、空き地にしゃがみ込んだ年配の男性、眠ってしまった子どもを抱く若い母親、宿題をしている小学生。そして、にぎやかなメインストリート125丁目のHMV、ディスニーストア、通りを埋め尽くす人ごみ。


 消滅しかけているオールドハーレムと、そこに建つ古いアパートメントに昔と同じように暮している人々。しかし彼らは、急にやってきたニューハーレムも抵抗なく受け入れ、125丁目の大型チェーン店でショッピングを楽しんでいる。


 
アティーは、私が撮りたくても撮れないハーレムのリアリティを見事に撮り切っている。じつはアティーと私は何ヶ所か、同じ場所を撮っているのだけれど、こちらは写真はしょせんアマチュア、向こうはプロ。出来上がりの差をうんぬんすること自体が間違っている。だけど、長年ハーレムを見つめてきたプロの写真家と私が同じ視点でファインダーをのぞいていることを知ったとき、私のハーレムに対する視点は間違っていないことを確信した。)


 なお、ハーレム再開発について書かれている前書きも、ハーレムの現状を理解するのに役立つ。


Harlem: On the Verge
by Alice Attie, Robin D. G. Kelley (Introduction)
$35.00
Publisher: W.W. Norton & Company; (September 2003)


上記の写真集は amazon.co.jp / amazon.com で購入可


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