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2004/05/15




ハーレムの多様性/ニューヨークの閉鎖性
ハーレムの住人たちの顔



 ハーレムは一般にアフリカンーアメリカン(※)の街として知られる。確かに街を歩けば通行人の多くは黒人。けれど、よく見てみれば同じ黒人であってもアフリカやカリブ海(西インド諸島)からの移民もいるし、その出身国はいろいろ。

※ここでは400年前に奴隷としてアフリカから北米に連れて来られた人々の子孫を指す



アフリカン(アフリカ諸国からの移民)


コートジボワール出身


南アフリカ共和国出身

同じアフリカとはいえ西と南、このふたりの持つ文化には共通点もあれば、まったく違う部分もある。ちなみにハーレムにはセネガル、マリ、ナイジェリアなど、西アフリカ出身の移民が多い。少数派になるが、ケニア、エリトリアなど東アフリカ、北アフリカ出身者もいる。


ウエストインディアン(西インド諸島出身者)


ジャマイカ出身


ハイチ出身

ジャマイカとハイチはどちらもカリブ海の島国だが、ジャマイカはかつて英国領で、ハイチはフランス領だった。そのため写真の女性は英国系の姓、男性はフランス系の姓を持つ。なお、ハイチはドミニカ共和国(旧スペイン領)と同じ島の西側を占める。



 また、近年のハーレムでその存在を忘れてはならないのがラティーノ。ものすごい勢いで急増中なのだ。個人的には「ハーレムは黒人とラティーノの街」と定義付けたいくらい。そしてラティーノの出身国も中南米/カリブ海のあらゆる国々にまたがっている。しかもラティーノには「黒人」もいれば「白人」もいるし、「インディオ」もいる。だから外見はさまざまだ。




ラティーノ(中南米/カリブ海のスペイン語圏出身者)

  
プエルトリコ系       ドミニカ共和国系        ベネズエラ系

3人とも中南米/カリブ海諸国からの移民を両親に、アメリカで生まれた二世。全員が英語とスペイン語のバイリンガルだが、ドミニカ系女性とベネズエラ系男性は共にフランス系の姓を持つ。(歴史の複雑さよ) なお、これまでニューヨークにはカリブ海系ラティーノが多かったが、最近メキシコ系が急増中。


アジア系/白人


日本出身

さらに、ここ数年のハーレム再開発によって治安と利便性がよくなり、白人や日本人も、まだその数は少ないとはいえ、暮し始めている。また、ハーレムに住んでいるわけではないが商店のオーナーには中国系、韓国系、アラブ系も多い。






 それぞれの移民グループには、大人になってからアメリカにやってきた一世と、アメリカ生まれの二世、三世がいる。彼らの中には毎年、祖国に里帰りする者もいれば、アメリカを出たことがない者もいる。その理由は、貧しくて旅費が出せない、不法移民なのでアメリカをいったん出れば再入国できなくなる(アメリカ生まれの二世はアメリカ市民権を持つので出入国は自由)、政情不安などにより祖国の治安が極端に悪いなど、人それぞれ。


 一世の中には英語が話せないか、片言程度の者もいる。しかしアメリカ生まれの子どもたちはバイリンガル。中には親の教育方針、または育った環境のために英語しか話さない子どももいる。


 アフリカンーアメリカン、ラティーノ、ウエストインディアンにはキリスト教徒が多いが、宗派に違いがある。アフリカンーアメリカンはプロテスタント(パプティスト)、ラティーノとウエストインディアンは宗主国であったヨーロッパの影響でカソリック。西アフリカ諸国からの移民はイスラム教徒。ただし、それぞれのグループには上に挙げた以外の宗教/宗派の信者もいる。たとえば、アフリカンーアメリカンにもイスラム教に改宗している者がいる。


 ジャマイカを始めとする西インド諸島出身者にはラスタファリズムを信じている者もいるが、ラスタは宗教というより思想と言えるかもしれない。また「ジャマイカ人=全員ラスタ」ではない。それと同様にハイチのブードゥー、プエルトリコのサンタリアも民族信仰または宗教的儀式というほうが正しいのかもしれない。

※ブードゥーのことが知りたければ voodoo study(日本語)へ!


 所得レベルもさまざま。プロジェクトと呼ばれる低所得者用の公団アパートに住み、フードクーポン(行政から支給される食品引き換え券)で暮している者もいれば、会社員や公務員もいる。MTVでお目にかかるミュージシャンやアーティストもいるし、歴史的な建物を数百万ドルで買い取り、目を見張るような“アフリカンーアメリカン・インテリア”を施して、インテリア雑誌に登場する政治家や実業家もいる。ハーレムの住人には、人種/エスニック/暮らしぶりに、これほどのバラエティがある。





 けれど、ニューヨークは全米でもっとも「人種による棲み分け」が徹底している都市だ。上に書いたようなエスニック(出身国)のバラエティがあり、それは日々さらに多様化しているとはいえ、ハーレムに暮しているのは、基本的には、やはり「黒人とラティーノ」だ。



  アメリカ西海岸からニューヨークに遊びに来た友人がハーレムを見て驚いていた。「私の街でも白人/黒人/アジア系は分かれて暮しているけれど、これほど広いエリアに、これほどたくさんの黒人「だけ」が暮しているところはない」。


 観光客にしてみれば、だからハーレムは「ブラックカルチャーを楽しめる街」として値打ちがあるのだ。けれど、アメリカという多人種国家にいながら、これほどひとつの人種で固まって暮らすことには、どんな意味があるのだろう? それは人々に、あるいはアメリカという国にどのように作用しているのだろう? そこには何か弊害が生まれてはいないのだろうか? あるとすれば、その弊害とは? 

写真、記事の無断転載禁止

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