それぞれの移民グループには、大人になってからアメリカにやってきた一世と、アメリカ生まれの二世、三世がいる。彼らの中には毎年、祖国に里帰りする者もいれば、アメリカを出たことがない者もいる。その理由は、貧しくて旅費が出せない、不法移民なのでアメリカをいったん出れば再入国できなくなる(アメリカ生まれの二世はアメリカ市民権を持つので出入国は自由)、政情不安などにより祖国の治安が極端に悪いなど、人それぞれ。
一世の中には英語が話せないか、片言程度の者もいる。しかしアメリカ生まれの子どもたちはバイリンガル。中には親の教育方針、または育った環境のために英語しか話さない子どももいる。
アフリカンーアメリカン、ラティーノ、ウエストインディアンにはキリスト教徒が多いが、宗派に違いがある。アフリカンーアメリカンはプロテスタント(パプティスト)、ラティーノとウエストインディアンは宗主国であったヨーロッパの影響でカソリック。西アフリカ諸国からの移民はイスラム教徒。ただし、それぞれのグループには上に挙げた以外の宗教/宗派の信者もいる。たとえば、アフリカンーアメリカンにもイスラム教に改宗している者がいる。
ジャマイカを始めとする西インド諸島出身者にはラスタファリズムを信じている者もいるが、ラスタは宗教というより思想と言えるかもしれない。また「ジャマイカ人=全員ラスタ」ではない。それと同様にハイチのブードゥー、プエルトリコのサンタリアも民族信仰または宗教的儀式というほうが正しいのかもしれない。
※ブードゥーのことが知りたければ voodoo
study(日本語)へ!
所得レベルもさまざま。プロジェクトと呼ばれる低所得者用の公団アパートに住み、フードクーポン(行政から支給される食品引き換え券)で暮している者もいれば、会社員や公務員もいる。MTVでお目にかかるミュージシャンやアーティストもいるし、歴史的な建物を数百万ドルで買い取り、目を見張るような“アフリカンーアメリカン・インテリア”を施して、インテリア雑誌に登場する政治家や実業家もいる。ハーレムの住人には、人種/エスニック/暮らしぶりに、これほどのバラエティがある。
けれど、ニューヨークは全米でもっとも「人種による棲み分け」が徹底している都市だ。上に書いたようなエスニック(出身国)のバラエティがあり、それは日々さらに多様化しているとはいえ、ハーレムに暮しているのは、基本的には、やはり「黒人とラティーノ」だ。
アメリカ西海岸からニューヨークに遊びに来た友人がハーレムを見て驚いていた。「私の街でも白人/黒人/アジア系は分かれて暮しているけれど、これほど広いエリアに、これほどたくさんの黒人「だけ」が暮しているところはない」。
観光客にしてみれば、だからハーレムは「ブラックカルチャーを楽しめる街」として値打ちがあるのだ。けれど、アメリカという多人種国家にいながら、これほどひとつの人種で固まって暮らすことには、どんな意味があるのだろう? それは人々に、あるいはアメリカという国にどのように作用しているのだろう? そこには何か弊害が生まれてはいないのだろうか? あるとすれば、その弊害とは?
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