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2004/12/08




モハメド・アリ in ハーレム



(1)モハメド・アリ

 12月1日。気温はまだまだ季節外れに高いけれど、前夜からの雨が降り続く日。ハーレムにあるヒューマン・ブックストアにモハメド・アリと、その娘ハナ・ヤズミン・アリがやってきた。父娘共著の回顧録「ザ・ソウル・オブ・ザ・バタフライ」のサイン会だ。

 パーキンソン病のアリはほとんど話せないし、動きもぎこちない。娘のハナが「写真撮影よ」「ほら、ここに座って」と細かい指示を出す。けれどアリは体つきも、顔つきもまだまだ精かんだった。しかもユーモアがある。頭のハゲた男性ファンの額に手をやってみたり、シャドウボクシングも披露してくれたり。


 そうやってアリがファンと交流する様子をメディアは写真に撮っていたのだけれど、15分程度で「撮影はここまで!」とマネージャーに止められてしまった。私も含めてフォトグラファーたちがカメラを片づけたその瞬間、小さな女の子ふたりを連れた女性ファンがアリに近づいた。子ども好きで知られるアリはふたりの女の子を代わる代わるに抱きしめた。


 偉大なるチャンピオンと幼い少女。しかも、アリは黒いセーター、女の子たちは、ひとりは鮮やかな赤いレインコートで、もうひとりは黄色いレインコート。絶妙のカラーコントラストで、これ以上はないというほどの「絵になる」瞬間だった。


 「Oh, C'mon!!」(おい、マイったな!)と、すでにカメラを片づけてしまったフォトグラファーが無念の声を上げた。


父娘ツーショット

http://www.huemanbookstore.com

まだまだ眼光鋭いアリ

125丁目の巨大広告。(12月第1週に撤去済み)

向かって右は末娘で
ボクサーのライラ・アリ






(2)ビル・マイルズと、その友人

 本屋を引き上げようと出口に向かうと、「Hey!」と誰かに声を掛けられた。ハーレムの歴史を何十年も影り続けているドキュメンタリーフィルム作家のビル・マイルズが、書店内のカフェでコーヒーを飲んでいた。


 ハーレムでこういったイベントがあると、時々彼は「撮影に来ないか?」と誘ってくれる。私もたまにビルにイベント情報を知らせることがある。ところが連絡を取らなくとも、こうやって当日に鉢合わせすることも多い。お互いマメにハーレムを歩いているなぁ、と感じる瞬間。


 今回、ビルにこのサイン会を知らせたのは、彼の古い友人だった。ハーレムには第一次世界大戦時に結成された黒人部隊「ハーレム・ヘルファイターズ」(ハーレム・地獄の戦士たち)を讚える第369駐屯所が今もある。1920年代に建てられた、アールデコ様式の壮麗な建物だ。友人はかつて部隊に属していた元兵士で、ビルはその駐屯所内にある展示室のキュレイターであり、黒人部隊をテーマにしたドキュメンタリー作品も作っている。(駐屯所は2012年オリンピックの新体操とボクシング予選の会場候補地となっている。)


 1974年にアリに関する本が出版された際、その友人がアリをテーマに書いた詩が掲載された。それをアリに手紙で知らせたところ、アリから返事が来たというのだ。すでに70代後半に見えるその男性は、にこにこしながら私にも黄ばんだ手紙を見せてくれた。


 その男性がアリに古い手紙を見せているところを私は写真に撮っていた。ビルの友人とは知らずに撮ったのだけれど、プリントして男性にプレゼントしようと思う。



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