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2005/07/01




音楽の子


黒人がみんな音楽の才能があるというのは大間違いだけれど、「みんな音楽とダンスが好き」というのは、ほぼ断言できると思う。黒人やラティーノのコミュニティでは生活に音楽が根付いていて、音楽は常にダンスとセットになっている。


ただ、ここハーレムにも「本能が音楽を欲している」タイプの人間が結構大量にいることも確か。そういう人間にとって、音楽とは好きとか嫌いとかいうレベルのものではなく、骨の髄にしみ込んでいるもののようだ。


今日、ハーレムの学童保育所に初めてやってきた5歳のジェローム(仮名)。男の子にしては可愛いらしい顔立ちで、コーンロウにした頭にオリーブグリーンのスカーフを被っていたから最初は女の子かと思った。


態度も大人しくて、名前を聞いてもささやくような声で答える。最初は静かにコンピュータで遊んでいたけれど、そのうちに「頭が痛い」と、やはりほとんど聞き取れないほどの小声で訴えてきた。熱はなかったけれど、風邪の引きはじめかもしれない。


その時、教室の仕切りの向うからヒップホップが聞こえてきた。メディアクラスがビデオ番組を編集しているのだ。するとジェロームは途端に曲に合わせて頭と身体を揺らし始めた。「あぁ、この子も音楽の子なのだ」と思った。



踊る、踊る、ハーレムの子どもたち(ピンぼけで失礼)



その後、他の子どもの相手をしていて、ふとジェロームを振り返ると、涙をぽろぽろこぼしている。どうしたのと聞くと、答えは予想通り「マミーに会いたい」。このセリフをいったん口にすると、もう歯止めが効かなくなって大泣きとなった。


典型的な mama's boy(ただし我慢強いバージョン)だ。母親との絆が極端に強くて人見知りをするタイプ。けれど「学校や保育所ではちゃんとしなくてはダメよ」と母親に言われているし、不平不満を他人にははっきりと言えない性格。けれど内心は母親が見えるところにいないこと、他人に囲まれていることからくる不安でいっぱいなのだ。だから最初は我慢していても、ある瞬間にプチッと切れて号泣を始める。


ところが泣き出す直前の、淋しさと不安ではちきれそうになっていた瞬間に、それでもヒップホップを聞けば自然と身体が動いたのだ。ジェロームは間違いなく、音楽の子だ。


泣き続けるジェロームをなんとかなだめ、無駄だと思いつつも、「じゃあ、また来週会おうね。来週も来るでしょ?」と聞いたら、なんとジェロームは首を縦に振った。「ちゃんと来なくちゃだめなんだ」と、子どもながらに頑張っているのだ。それとも「ここなら他の保育所と違ってヒップホップが聴ける」とでも思ったのか。音楽の子。



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