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2006/2/7




ブラックヒストリーマンスのあれこれ
銃撃のNYC





■ブラックヒストリーマンス(毎年2月)■



 今年も黒人史月間がやってきた。「実際にどんなことが行われるのですか」というメールをいただいたので、ちょっとご紹介。


 テレビでは特集番組、博物館では関連展示会が開かれ、コンサートや講演会などのイベントも大小たくさん開かれる。黒人史をまとめて知ることができる良いチャンスだ。中にはアフリカンアメリカン自身が「そんな史実があったなんて知らなかった!」と驚くものもある。


 今年のびっくりナンバーワンは、なんといっても
ニューヨーク歴史協会で開催中の「ニューヨークの奴隷制」展示会。一般に黒人奴隷制は南部諸州のもので、当時の黒人は自由を得るために、奴隷制のなかったニューヨークを含む北部に逃亡したとされている。


 ところがこの展示会は、ニューヨークにも奴隷制があったことを、奴隷即売会のチラシや、足かせなど、かなりショッキングな展示物によって証明している。


 ブラックヒストリーマンスは、ビジネスにも多いに活用されている。なんといっても全米人口の13%、ニューヨークでは25%が黒人なのだ。平均所得は白人より低いとは言え、消費者パワーとしては見逃せない。


 マクドナルドは黒人客なしでは経営が成り立たないビジネスの典型。ゆえに以前から2月だけではなく、「365日ブラック」という、なかなか笑えるキャンペーンを年間を通じて展開している。


 “ターゲット”という大手ディスカウントストアのチェーンは、今年は本気のブラックヒストリーマンス・キャンペーンを行っている。キャッチフレーズは「ドリーム・イン・カラー」。「ドリーム」はキング牧師の有名な演説に由来する。「カラー」は人種と、ターゲットのカラフルな商品ラインナップを掛け合わせているのだろう。





 キャッチフレーズの次には「白でもない、黒でもない。ビビッドな色」と書き添えてある。意地悪く解釈すると「白人も黒人も皆ターゲットに来て、うちのカラフルな商品を買ってよ」ってことか。


 ただし、ターゲットもマクドナルドも黒人の青少年をバックアップするシステムを持っている。ターゲットの場合は、自社の基金とタイガー・ウッズ基金がスポンサーとなった、一種の奨学金制度だ。(全人種が対だが、ターゲットのCMには黒人のみが登場)


 アメリカは資本主義の王国。どんなネタもビジネスに利用される。これは搾取ともいえるけれど、消費者との持ちつ持たれつだから、これもOKだろう。ターゲット&タイガー・ウッズ基金で夢をかなえる若者が実際にいるのだから。




■ティモシーのその後■




ティモシー・スタンズバリーJr.
享年19歳
 「2004年1月にブルックリンで起きた事件<プロジェクトの屋上でのNYPD発砲事件>は、その後、進展があったのでしょうか?」というメールをいただいた。


 この件は、残念ながら裁判に持ち込めなかった。大陪審が、黒人青年を撃った白人警官に落ち度はなかったと判断したのだ。(大陪審とは、事件を裁判に持ち込むかどうかを、陪審員が決める制度。)



 昨年の夏、犠牲者の青年ティモシー・スタンズバリーJr.が住んでいたプロジェクト(低所得者用公営アパート)付近の通りに「ティモシー・スタンズバリーJr.アヴェニュー」という名が付けられた。


 その除幕式でティモシーの母親は語った。
 「息子はドラッグディーラーではなかった。犯罪者でもなかった。マクドナルドで働き、(まっとうな方法で)お金を稼ぐことを誇りにしていた」


 とあるブログで、この件に関する書き込みを見つけた。「ティモシーが得たのは、結局はファッキンな道の名前だけかよ」
 書き込みをしたのは、おそらく黒人の若者だろう。通りに名前を付けてもらったところで、10代で死んでしまっては一体何になるというのだろう。


 その後も銃犯罪が減らないニューヨーク。先週末もやたらと銃撃があった。理由はさまざまで、ドーナツ屋での強盗あり、車に同乗の2人を撃ち、ガソリンをかけて火を放って立ち去った男あり(理由は不明)、そしてバスタ・ライムスのビデオ撮影現場では口論のあげくの銃撃あり。


 土曜の夜から日曜の未明にかけて、ラッパーのバスタ・ライムスはブルックリンのスタジオでせっせと新作ビデオを作っていた。現場にはゲスト出演予定のメアリ・J・ブライジ、50セント、ロイド・バンクス、ミッシー・エリオットを含む500人もが居たそうな。


 撮影中、いくら注意しても騒ぎ続ける男たちと、長年バスタのために働いてきたボディガードのイスラエル・ラミレス(29歳)が口論となった。もちろんカースワードの応酬だ。いったん現場を去った男たちは30分後に戻り、ボディガードを撃って逃げ去った。この男たちが何者なのか、現時点では不明。


 バスタはヒップホップ界では貴重な人物だ。いつもハッピーな笑顔全開で、一見あほっぽく見えるものの実は知性派で、アンチ暴力派でもある。だから今回の事件は残念だ。(事件とは関係ないのだけれど、バスタは昨年末に、彼のトレードマークだったドレッドロックをばっさりと切ってしまった。)


 
前々回のメルマガ「ハーレムのニューイヤーズ・デイ」に書いたように、ニューヨークの殺人事件数は激減を続けている。今年1月の月間犠牲者数は“たったの44人”だ。ちなみに市の人口は800万人。


 ところが銃撃件数は、実は増えている。つまり、アマチュアがめったやたらと撃っているものの、相手に当っていないだけ、ということか。良いんだか、悪いんだか……。


 年明け早々に警官が撃たれる事件があり、銃の不法所持に対する刑が重くなる予定。良いことだ。ニューヨーク、銃があふれ過ぎている。


 つい先日も、ハーレムの子どもたちと話していると、シュートアウト(銃撃)という言葉が8歳の男の子の口から出た。「シュートアウトがあり過ぎるから、プロジェクトから引っ越したんだ」
 民間アパートに越せるだけの収入があって、この一家はラッキーだ。他の女の子も話し始めた。「プロジェクトって大嫌い。おばさんが住んでて、いつも銃を撃つ音がするって言ってる」


 こんな風に書くと、ニューヨークって一体どうよ? って感じですが、最近は昨年末のスト騒動のような大事(おおごと)もなく、天候は良いし、割りと穏やかに日々が過ぎています……。







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文:堂本かおる