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2006/3/8




アフリカン・ニューヨーク




 ニューヨークにアフリカ移民がどんどん増えている。実数は分からないけれど、日々実感する。


 毎年2月は「ブラックヒストリー月間」で、ニューヨークのローカル・ニュース局NY1も毎年、黒人史に関するミニ・コーナーをオンエアする。今年は、そのミニ・コーナーに初めてアフリカ移民コミュニティのエピソードが取り上げられた。


 マンハッタンにあるハーレムの中だけではなく、ブルックリン、ブロンクス、クイーンズ、スタテン島と、ニューヨーク5区にそれぞれアフリカ移民のコミュニティが存在するのだ。


 先日、ハーレムにあるアフリカン・テキスタイルの店で、日本から来た人たちにアフリカ移民の歴史について話していた時のこと。西アフリカ製のカラフルな生地を品定めしていたアメリカ黒人の年配の女性が「あなたが何を話しているのか、気になるわ」と、ニコニコしながら話しかけてきた。


 「ハーレムのアフリカ移民のことです」と答えると、「私も聞きたいわ。英語で話してみて」


 ごく簡単に、かいつまんで説明した。「1980年代頃から、旧宗主国フランスの移民法強化によってフランスに行けなくなった人たちがニューヨークに来始めたんです」「今ではハーレムの中にも“リトル・セネガル”が出来ているんですよ」


 女性は「まぁ、知らなかったわ。どこにあるの?」と、驚いた顔をした。


 ハーレムの地元民も、アフリカ移民の急増には気付いている。街を歩けばアフリカ移民が経営する店は多いし、子どもを持つ人であれば、自分の子どものクラスメートに、アメリカ生まれのアフリカ移民二世たちが混じり始めていることを知っているだろう。


 それでもハーレムの中にいくつかあるアフリカ移民コミュニティの存在までは知らない人も多い。ハーレムの人も大抵は自宅の周辺と駅前くらいしか歩かない。広いハーレムを端から端まで歩き回る人などあまりいないから、アフリカ移民コミュニティがあることは、それほど知られていないのだ。




 アフリカ移民の急増を物語るもうひとつのエピソードは、事件事故のニュースだ。テレビや新聞を注意深く見ていると、関係者や被害者の中にアフリカ移民らしき名前を見つけることが増えてきた。


 2月の末にブルックリンで起きた火事ではアフリカ移民の女性と、アメリカ生まれの3歳の娘が犠牲となった。


 犠牲者の夫であり、父親であるカソーム・フォファナは西アフリカ、ブルキナファソの出身。1994年、よりよい将来を得るために故郷に妻子を残し、単身アメリカに渡っている。大工として成功して自身の会社を設立。2001年にアメリカ市民権を得て、妻のアスィタと2人の息子を呼び寄せている。その後にアメリカで生まれた3人目の子どもに付けられたのは、ミリアムという英語名。典型的な移民の成功物語だ。ところが、一家が暮らすアパートメントビルに火事が起こり、妻のアスィタと3歳のミリアムが亡くなってしまった。


 火事の2日後にはブロンクスで15歳のアフリカ系少年エドウィン・オウス・ハモンドが、近所に住む13歳の少年に刺されて亡くなってしまった。エドウィンは西アフリカのガーナから移民としてやってきた親の元、アメリカで生まれている。


 事件の起きた日、エドウィンは親友と一緒に洗濯をしたり、コンピュータゲームをして過ごしているが、2人ともアメリカで生まれ、祖国ガーナで育った少年だ。移民の中には、アメリカ生まれの子どもにアフリカの文化を教える目的で、祖国の親戚に預ける者がいる。エドウィンも6ヶ月前にガーナからニューヨークに戻ってきたばかりだったいう。


 犯人は非アフリカ系の少年だったが、動機は発表されていない。(以上、2件の詳細はニューヨークタイムズより)


 アフリカ移民の人口が増えれば、必然的に事件事故に巻き込まれる者も増える。これらの悲劇は、ニューヨークにそれだけアフリカ移民が増えているということの表れだ。


 つい先週も、日本から来た人とハーレムを歩いていると、目の前をアフリカ人の中年のカップルが歩いていた。男性が、日本語でしゃべる私たちを振り返り、「君たち、何を話してるの? ボクの靴がヘンな音でもたててる?」と冗談を言った。その横に立つ、奥さんらしき人も笑っている。
 「そうじゃなくて、あなたたちの話している言葉、どこの言葉かなって言ってたんです」
 アフリカには部族語(*)が何百とあるのだ。
 「トゥイ語だよ。ガーナから来たんだ」


※近年、未開人を思わせる「部族 tribe」という言葉を使うのを止め、「民族 ethnic」と言うべきだという主張もある


アフリカ直送の生地を売る店
オーナーはマリ共和国出身





西アフリカ移民が集うモスク(イスラム寺院)





アフリカのスーパースター、
セクバ・バンビーノ(ギニア出身)
のコンサート in ハーレム





セクバ・バンビーノのコンサートは
着飾ったアフリカ移民の女性ファンで満席





ジョー・ブラック・セクー
(コートジヴォワール出身)
ニューヨークをベースに
活動するレゲエシンガー





無実のアフリカ移民オスマン・ゾンゴ
(ブルキナ・ファソ出身)が
警官に射殺された事件に対する抗議デモ






セネガルとガンビアからやってきた移民を両親に
アメリカで生まれた二世の双子。現在は高校生、
将来は弁護士かジャーナリスト志望




※ニューヨークのアフリカ移民に
関するエッセイ集










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文・写真:堂本かおる