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2007/9/18



イラク戦争の真実
米軍に入隊する若者たちと
変わりつつあるアメリカのメディア




 今年も9.11が過ぎた。

 あれから6年。イラク戦争はいまだに続いている。アメリカは今も戦時下にあり、兵士たちは今日もバグダッドで戦死し続けている。


 今年の夏、ハーレムウィーク(毎年恒例のストリートフェスティバル)にアメリカ軍のリクルートブースが初めて出店した。長引くイラク戦争と増える戦死者に若者たちが恐れを成して入隊者が激減、兵士不足を招いているのだ。ハーレムに隣接するラティーノ・コミュニティー、スパニッシュハーレムやワシントンハイツのフェスティバルにも、やはり米軍ブースは出店し、パンフレットを配っていた。


 今日9月17日のニュースに、ハーレムの北に広がるラティーノ街、ワシントンハイツ出身の兵士の悲報があった。ホワン・アルカンタラ(戦死時22歳)はドミニカ共和国からニューヨークに5歳で移住。米軍入隊時にはグリーンカード(アメリカ永住権)保持者であり、アメリカ市民権は持っていなかった。米軍はグリーンカード保持者が入隊すると市民権をスピード配布しており、これが「アメリカ国籍を持たない米兵」が2.1万人も存在する理由だ。


 アルカンタラ兵士は8月に戦死。本来はそれ以前に帰還するはずだったのに、兵士不足からイラク駐留の延長を申し渡され、6月に長女が生まれた際の帰国願いも却下されたと言う。若き父親は生後6週間の娘に会うことなく、バグダッドに近い町で爆死し、死後、念願の市民権を授けられた。


 昨年、ある雑誌の記事のために私がインタビューを申し込んだイラク帰りの元州兵(ブルックリン在住、アフリカンアメリカン)は、大学への奨学金を得るために入隊し、イラクに派兵された。彼は「イラクで何度も戦闘を体験し、帰還後はPTSD(心的外傷後ストレス障害)に悩まされている」と言った。(このインタビューは雑誌編集サイドの意向により却下された。)


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 先日、ケーブルTV局HBOが『生存の日の記憶〜イラクからの帰還』ALIVE DAY MEMORIES: HOME FROM IRAQと題されたドキュメンタリーをオンエアした。イラクで重傷を負い、障害者となった元兵士たちへのインタビュー集で、聞き手はドラマ『ソプラノ』の主役だったジェームズ・ガンドルフィーニ。


 10人の兵士が義手、義足、義眼姿でカメラの前に座り、爆撃を受けた当日の記憶、その後の肉体的、精神的な苦しみ、現在の心境を赤裸々に語った。戦争批判や政治的な意見は一切はさまず、個々人の体験と心情のみが語られた。入隊の動機は「愛国心」「不良仲間との縁を切るため(女性兵士)」などさまざまだった。


 医療技術の飛躍的な向上に伴い、ベトナム戦争時なら間違いなく死亡していたであろう重傷者が、今は『生存』することが可能なのだ。ただし、吹き飛ばされた手足を再生することは現在の技術をもっても出来るはずはなく、精巧に作られた義手や義足を装着することとなる。


 彼らが義手、義足でスポーツやダンスを楽しむ映像も流され、その肉体と精神の強さに驚かされる。その一方で、右腕を肩から無くした元女性兵が「将来、子供を生んでも両腕で抱いてやれない」と絶句するシーンは、深く静かな衝撃を視聴者に与える。


 「市民権」「奨学金」「愛国心」「人生のやり直し」……。
さまざまな動機で入隊する若者たち。市民権と奨学金に関しては、それをエサに軍が移民や貧困層の若者を釣っていると言えるかもしれない。けれど、最終的に選択をするのはあくまで本人。ただし、入隊を考える若者と家族に戦争の真実を伝える義務が政府・軍とメディアにはある。


イラク戦争(2003年3月〜)
 米軍 戦死者 3781人(連合軍全体では4080人)
 米軍 負傷者 27279人
 イラク民間人死亡者 7.2万人〜7.9万人


アフガニスタン侵攻(2001年10月〜)
 米軍 戦死者 437人 (連合軍全体では677人)
 米軍 負傷者 1567人


データは以下より抜粋(2007/9/17付)
http://www.cnn.com
http://www.iraqbodycount.org/


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 上記『生存の日の記憶』によって、政治的な視点では無く、客観的な視線で戦争の実態を描こうという報道が、ようやく始まった。同時に、「イラク戦争の理由を根本から考えよう」という番組もあった。


 CNN『神の戦士たち』God's Warriors は、気鋭のジャーナリスト、クリスチャン・アマンポーラが三大宗教:キリスト教、ユダヤ教、イスラム教をそれぞれ徹底取材し、各2時間、計6時間のドキュメンタリーとした大作。


 それぞれの宗教の歴史から現在の在り方、多様性(異なる宗派、地味な信者から過激派まで)を紹介し、他の信仰を持つ(あるいは信仰を持たない)者が純粋に「なぜ?」と思う部分を追求する。三大宗教を“勉強”するには良い教材かもしれない。


 やはりCNNの『ヴェールをめくり上げて』Lifting The Veil は、アフガニスタンでいまだに異常に低い地位に置かれたまま、虐待され続ける女性たちを取材。これも女性リポーターが批判的な視線ではなく(ただし女性たちに深く同情的に)、事実を事実として描写。タイトルは、女性たちが被っているブルカ(頭からつま先まで全身を完全に覆う衣装)をめくり、素顔を見せ、現状や心情を語っていることから。



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文:堂本かおる