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2009/5/18



号外:型インフルエンザ in ニューヨーク


■新型インフルエンザの現状

(※アメリカでは豚インフルエンザ改めH1N1インフルエンザ)

先週、ニューヨーク市内の小学校や中学校、計6校が休校となり、今日17日(日曜)に、さらに3校が明日18日(月曜)から5日間程度の休校になると発表があった。ただし、新型インフルエンザと判定されているのは1名のみで、他は「インフルエンザに似た症状の生徒が大量に出た」ための休校。


休校になる9校のうち、8校はクイーンズ区、1校がブルックリン区。(ニューヨーク市はマンハッタン、ブルックリン、クイーンズ、ブロンクス、スタテンアイランドの5区から成る)


クイーンズは世界中からやってくる移民が多く住み、人種やエスニックが多彩な区。休校となる8校のうち7校の生徒はアジア系、ヒスパニック、白人(地区によってはロシア、東欧系の移民)で占められていて、黒人は少ない。新型インフルエンザ感染者が出た中学校だけはホリスという黒人中流層の多い地区にあり、生徒の半数が黒人だが、感染者はクイーンズ区内の他地区に住む白人の教頭。


ライカーズ刑務所でも囚人1名が感染している。ライカーズ刑務所はブロンクスとクイーンズの間を流れるイースト・リバーに浮かぶ島全体を刑務所として使っているもので、入り口はクイーンズ側のみ。


このように感染者や疑わしい症状を持つ患者はクイーンズに集中している。そのためマンハッタンに住んでいるとインフルエンザの影響はほとんど感じない。話題に上ることも少ないし、イベントの類いが中止になったとも聞かない。今日もセントラルパークで毎年恒例のエイズ・ウォークが予定通りに開催され、4万5千人が参加している。当然、クイーンズの住人も大量に参加しただろう。


行政はニューヨーク市民に注意を促しているし、新たな休校が出るとメディアも報じるものの、大げさなトーンではない。(もちろんクイーンズの、特に子どもを持つ家庭ではそれなりに案じているだろう。)


ニューヨーク市の公式サイトでもインフルエンザ情報はトップ画面に掲載されてはいるが、記事としては2番目扱い。


そこにある注意事項は以下。

●咳をする時は口を覆う
●石けんで手を洗う。ハンド・サニタイザーも有効
●病人とのコンタクトを避ける
●熱、咳、喉の痛みの症状が出たら、回復後24時間は外出を控える
●深刻な症状でない限り、病院に行くのを控える。行く場合は直前か、到着直後に症状を伝え、他の患者から隔離されること

アメリカではマスクをする習慣はなく、ここでもマスク着用は奨励されていない。


ここまで書いた時点で日曜・夜11時のニュースが始まり、「ニューヨーク市初の新型インフルエンザによる死者」の報道。先に書いた中学校の教頭は最初から重症で入院しており、今日の夕方に亡くなったという。55歳で、通風を患っていた。


教師の自宅近所の住人や学校の生徒へのインタビューがあったが、新たな注意の喚起や予防策などは報じられず、次のニュースに移った。けれど、さすがに明日の新聞ではトップ扱いだと思われる。



■ニューヨークでの報道

ニューヨークで新型インフルエンザについての騒ぎが「盛り上がらない」のは、ニューヨークという都市の社会構造の特殊性〜多人種・多民族、激しい貧富の差〜が理由かもしれない。

ニューヨーク市の人口の36%を占める移民(外国生まれ)は世界中のさまざまな国から来ている。当然、「常識」は、それぞれの国や地域によって異なる。インフルエンザという病気をどれほど深刻に捉えるか、どの程度の予備知識があるか。


また、家庭内で英語以外の言語を使う者の割合が48%と高く(英語と母国語のバイリンガルを含む)、アメリカのメディアではなく、自身の第一言語による新聞やニュースを見る者も多い。ニューヨークには多くのエスニック・コミュニティーがあり、それぞれが母国語による新聞やインターネット情報を持ち、大きなコミュニティーになるとラジオ局やテレビ局もあある。


したがってCNNやニューヨークタイムズの報道を、全てのニューヨーカーが共有するという現象が起こらない。


さらに、アメリカ人も含めて人種&エスニック、所得、職種などによって居住エリアが細分化されている。ゆえに自分が所属するグループへの関心だけが高くなり、他グループの存在や動向を気にかけない。


たとえば、現在は患者(及び感染の疑いがある者)はクイーンズに集中しているため、クイーンズに出掛ける必要がなく、マンハッタン内だけで生活している者は「それほど気にする必要がない」と感じているだろう。


また、何事につけて競争が激しく、世知辛いニューヨークでは、どのグループの人間もそれぞれ異なる理由(金を稼ぐこと、夢の実現、)で多忙につき、インフルエンザを気にする時間的、精神的、もしくは金銭的な余裕がない。


もちろん、アメリカのメディアも大きなニュースは一斉に派手に報道する。けれど人々のバックグラウンドが多種多様である以上、必要とされるニュースもグループによって違ってくる。だからこそ、ある一定量以上の偏重報道が起こらないのではないだろうか。


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文:堂本かおる