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2000/07/25

ベイビー, ベイビー, そのやさしさの理由は…

        

アメリカ人が恋人や妻・夫を“ハニー”“ベイビー”“スウィーティー”などと呼ぶことは、映画などでよく知られるところ。だけれど、親しみを込めて相手を名前以外で呼ぶこういった習慣は、実は黒人の独壇場。


上記3種+“ディア”あたりが人種を問わずにポピュラーな呼びかけだけれど、白人には“ハニー”派が多く、黒人には“ベイビー”派が多いように感じる。しかし、黒人男性の本領発揮はここからだ。“シュガー”“クッキー”“ブー(語源はアフリカの言葉で親愛なる者)”“ダンプリング(この場合は中華料理のギョウザではなく、中に果物などを包んだお菓子)”などは、まだまだ普及版。あとは、これらをアレンジした“マイ・シュガー・クッキー”“ブー・ビー”あたりから“カップケーキ”だの“チョコレート・ミルク”だの、個々人のオリジナルが果てしなく続く。


また黒人男性がお互いを“ブラザー”、その省略形の“ブロ(Bro.)”または“マン(Man)”と呼び合うことも良く知られている。なんとなくファンキーなイメージのある言葉だけれど、これらは世代を問わず、広く使われる。年配の男性も友人知人に対してはもちろん、通りすがりの黒人男性に道を尋ねる時や、ちょっとした親切を受けた時などにも使う。“Thanks, Brother !”“Man, what's goin' on here?”(マン、これは一体どうなっているんだよ?”)


一方、女性は恋人や夫を呼ぶ際に、男性ほどのバラエティは見せない。最初に挙げた定番3種が多いようだけれど、女性同士となると“ガール”の呼びかけが多い。男性の“ブラザー”に相当する言葉で、親しみを込めたい時には友人に対しても、他人に対しても使う。また年下の女性に対しては親愛+Taking care(面倒を見る)の気持ちの表れか、“ハニー”“ベイビー”“スウィーティー”の定番3種がグンと増える。例えば職場で30代の女性が同僚の20代の女性に対して使ったり。“Sweety, that's OK, I'll do it for you.”(スウィーティー、大丈夫。それは私がやるから)

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なぜ黒人はこういった呼びかけを多用するのだろう? ひとつにはアフリカン−アメリカンの持つ口語表現の豊かさがある。かつての奴隷制時代に読み書きを禁じられていた黒人奴隷たちは、すべての情報を言葉にして伝え、語り継いできたという伝統がある。その際に言葉は必ず見事なリズムを持っており、その言葉とリズムのコンビネーションは脈々と現代にも受け継がれている。だから例えば“Latisha, what's wrong with you, girl?”(ラティーシャ、どうしたの、ガール?)のように、先に相手の名前を呼んでおきながら、最後になおかつ“ガール”と付け加えるのは言葉のリズムを取るためで、アフリカン−アメリカンは、これを全く無意識にやっている。ラップが白人やアジア人ではなく黒人から生まれたのは、このためだろう。


では、男女間でロマンティックに呼びあうのは、アフリカン−アメリカンの恋愛に賭ける情熱度の高さの表れだとして、同性同士の場合の理由は? 男性の場合はマイノリティ同志としての親近感、連帯感が絶対的な理由だろう。それでは女性同志の場合は?
ある人が言った。
「黒人女性にはシングル・マザーが多い。普段苦労が多く、タフにならざるを得ない彼女たちには、ああやってお互いを思いやるスウィートネス(優しさ、甘やかさ)が必要なのよ」


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