ウエスト･インディアン･アメリカン･カーニヴァル･パレード

2000/09/05

ウエスト･インディアン･アメリカン･
デイ・カーニヴァル･パレード
カリビアン・フラッグと星条旗

ジャマイカ、ハイチ、トリニダード＆トバゴ、グレナダ、バルバドス、ヴァージン・アイランド、セント・ヴィンセント、ドミニカ、ガイアナ、セント・ルシア … カリブ海に浮かぶ様々な島々の国旗を手に持ち、またはバンダナ代わりに頭に巻き付けたり、タンクトップやミニ・スカートに仕立てて褐色の身にまとった人、人、人、人、人…。

ニューヨーク、ブルックリン。イースタン・パークウェイをグランド・アーミー・プラザを目指して進むカラフルに飾られた50台もの山車と、バンド・メンバーとスピーカーを山積みにし、大音響でレゲエやカリプソを流しながらゆっくりと走る大型トラック。その前後を行進するのは、孔雀の羽飾りとスパンコールで目も眩むほど派手に着飾ったダンサーたちと、各国の国旗を振りながら踊る人々の群れ。舗道にはカリビアン・フードの屋台が立ち並び、香ばしいジャーク・チキンが良く売れている。

９月の第１月曜日、レイバー・デイと呼ばれる祝日には、毎年ブルックリンで、ニューヨーク最大規模のパレード“ウエスト・インディアン・アメリカン・デイ・カーニヴァル・パレード”が行われる。今年もメイシーズ・デパートのサンクス・ギビング・デイ・パレードを遥かにしのぐ200万人ものカリビアンが参加し、その様子は前日の準備段階からテレビのニュースでも報じられていた。

ウエスト・インディアンとは西インド諸島、つまりカリブ海諸国出身者のことを言う。カリブ海から地理的に近いニューヨークと近郊の東海岸の州、及びモントリオールなどを含むカナダ東部にはカリブ海諸国からの移民が多い。そのカリビアンが１年に一度、ニューヨークで最もカリビアンが多く住むブルックリンに集まり、盛大なフェスティバルを開く。

そんなに広くはないカリブ海だけれど、そこには多くの島国があり、このパレードに参加するのは、カリブ海諸国の中でもジャマイカなどの英語圏と、ハイチなどのフランス語圏の国。（もっともほとんどの国では、英語かフランス語と現地語の混ざったクリオールやパトワを呼ばれる言葉が使われている）　プエルト・リコ、キューバ、ドミニカ共和国などのスペイン語圏の国々は、同じカリブ海にありながらも、“ヒスパニック”として独自の文化を持ち、特にニューヨークに多く住むプエルト・リカンは６月に、やはりかなり規模の大きいプエルトリカン・デイ・パレードを行う。

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パレードの最中、ニュース・リポーターにインタビューされた人々は、誰もが高らかに言う。「私はカリビアン！」「これは私たちのフェスティバル！」　誰も彼もが民族の誇りではちきれんばかりの笑顔だ。しかし、見物人の中には自国の国旗と共に、星条旗を身に付けている人も見かけられる。これはカリビアンに限ったことではない。アメリカでは何かにつけて、星条旗をデザインした小物やＴシャツなどがよく売れる。人気デザイナーのトミー・ヒルフィガーもスターズ＆ストライプスをデザインしたシリーズが売れに売れ、黒人もその大きな購買層だった。

移民国家アメリカに於ける星条旗の意味、もしくは愛国心とは何なのだろう？　はるか以前にヨーロッパからやってきた移民の末裔たちは、現在ももちろん、私はアイリッシュ、僕はイタリアン、などと出自を誇るけれど、自分たちがアメリカを作ってきたという自負があり、彼らは100％生粋のアメリカ人だ。また、奴隷として強制的に連れて来られたとはいえ、アフリカン－アメリカンたちもまた、既に何世代にも渡ってアメリカに住み続けている。アフリカとの直接の繋がりは最早なく、いまだに差別を受けていることからアメリカという国に対して大きな不満があるにせよ、彼らもまた、紛れもないアメリカ人である。それに対し、アメリカに移り住んで、まだ日も浅く、鮮明な自国の記憶を持っているカリビアンたちにとっての愛国心とは？　アメリカに対する思いとは？

カリブ海諸国はいずれも貧しく、彼らカリビアンは少しでも豊かな将来を手に入れたくてアメリカにやって来る。しかし、ここアメリカには黒人として、カリビアンとしての差別があり、一朝一夕に豊かになれるはずもないのだけれど、それでも、ここにはアメリカン・ドリームを手に入れるチャンスがあり、実際に既に成功しているカリビアンも少なくない。星条旗はそのシンボルなのかも知れない。一方、マイノリティとしての苦労や差別に遭遇するたびに祖国を懐かしむ。また、かなりの数がいると推定される不法移民に至っては、一時的な里帰りすら出来ず、故郷を思う気持ちは募るばかり。彼らが自国旗と星条旗を共に身に付けることには、そんな理由があるのかも知れない。

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カリビアン＝マイノリティとは言え、パレードに集まってくる200万人は政治家にとっても無視できない数である。（例え、かなりのパーセンテージで不法移民が混じっているとは言え）　特に今年は11月に大統領選と共に上院議員選も控えており、マイノリティ寄りの戦略を取っている民主党候補のヒラリー・クリントン氏も鮮やかな黄色のスーツで参加し、なかなかの人気振り。一方、中流層に支持されている共和党からの対立候補リック・ラジオ氏の姿はない。ハーレムの黒人リーダー、アル・シャープトン師が、もちろん笑顔で迎えられていたのに対し、相次いだ警官による黒人男性虐待事件、パレードでのアルコール販売禁止措置がたたっているジュリアーニ市長はブーイングを覚悟の上での参加。

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その警官による黒人男性虐待事件のひとつ、今年２月にハイチ人男性が射殺された件に対する抗議デモでは、人々はハイチ国旗を振りかざし、アメリカ国旗を焼いて怒りを表した。

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しかし、今日はそんなことを考えるには、あまりに楽しく、あまりに賑やか。誰もが笑い、歌い、踊り、食べて、楽しんでいる。途中にかなりの大雨が降ったものの、誰もそれを気にする風もなく、パレードは続いた。

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