NYBCT


2000/09/11

ミセス金大中とアフリカン-アメリカン


ミレニアム・サミットに、なんと世界150カ国からの首脳たちが続々とニューヨークにやってきた。この史上最大規模の世界会議のおかげで、国連ビル界隈には極めて厳しい警戒体制と交通規制が敷かれ、ニューヨーカーはみんな迷惑顔。それはさておき、サミット期間中に多忙なのは首脳たちだけではない。その夫人たち、及びごく少数ではあるけれど、女性首脳の夫たちも、様々な外交イベントに借り出される。そのひとつとして、韓国大統領、金大中氏夫人の Lee Hee-hoさんが、クイーンズにあるフラッシングYMCAにやって来た。


・・・・・

ニューヨーク市はマンハッタン、ブロンクス、ブルックリン、クイーンズ、スタテン島の5つの区から成り立っている。各区それぞれに様々なエスニック・グループが存在し、よく知られているところでは、マンハッタン(ハーレム)のアフリカン-アメリカン、ブロンクスのラティーノ、ブルックリンのカリビアンとユダヤ系、そしてスタテン島の白人など。


けれど各区ともに実はさらにたくさんのエスニック・コミュニティを含んでいて、それを説明するだけで一冊の本が書けてしまうほど。特にクイーンズは世界各国からやって来た移民がまず落ち着く場所となっており、先日のニューヨーク・タイムズ紙に驚くべき記事を見つけた。


(以下、タイムズ紙からの引用、抜粋)クイーンズのフラッシングはニューヨークの中でも特筆すべき移民の坩堝で、とある公立小学校で、生徒が家庭内で使っている言語を調べた結果、861人の生徒が実に36種の言語を使っていることが分かった。ロシア語、英語、スペイン語、北京語、広東語、韓国語、ヒンドゥー語、北京語と広東語以外の中国語、フィリピン語(タガログ語と思われる)を筆頭に、以下、日本語2人を含め、使用人数1ケタの言語が27種続くのである。


・・・・・

クイーンズのフラッシングはこのようにマルチエスニック地区であるが、ニューヨーク最大のコリアン・タウンでもある。これが、金大中氏夫人の Lee Hee-ho さんがフラッシングYMCAを訪れた理由である。…が、このイベントに何故かハーレムYMCAが招かれた。なんでも、夫人にニューヨークの韓国系コミュニティとアフリカン-アメリカン・コミュニティの連帯を見ていただくためだと言う。いまいち釈然としない理由だ。韓国系とアフリカン-アメリカンが連帯しようというプロジェクトも在るには在るのだけれど、実は、その関係はギクシャクしているといったほうが正しい。理由は「24時間営業の食料品屋」であり、1992年のLA暴動でも、韓国系経営の店が略奪・放火の標的となってしまっている。


韓国系は比較的新しい移民グループである。彼らはアメリカに到着するや否や食料品屋を始め、家族だけの3交代制で24時間営業をする。一世たちはそうやって資金を作って二世たちを大学に入れ、その二世たちは弁護士や医者、または、そこまでいかずとも、かなり収入の高い職業に付き、あっという間に成功を収めてしまった。もともと勤勉な国民性と、一世たちの母国での教育レベルの高さ故に、他の移民グループに比べて、成功するまでのスピードが圧倒的に早かったのである。


一方、黒人は一般的にはレイジー(だらしがない)であり、勤勉さに欠けると言われている。確かに、韓国系のように24時間働いてでも成功を手に入れる、といったがむしゃらさは、彼らにはない。これは、やはり奴隷制の残した産物と言える。いくら働いても自分自身には何の還元もない奴隷が必要以上に働く筈はないし、奴隷解放後も差別が残ったため、例え勤勉であっても、優秀であっても、彼らは正当な位置についたり、収入を得ることができない。これが「そんなに働いて、何になるんだ?」という彼らの態度の理由である。しかし黒人コミュニティにまで進出し、着々と成功を収めている韓国系の食料品屋を見て、アフリカン-アメリカンたちは羨み、嫉み始めた。


・・・・・

とにかく、そういう関係でありながら、ハーレムYMCAが韓国系コミュニティに招かれた本当の理由は以下の様であった。


金大中氏夫人のLee Hee-hoさんは、北朝鮮の飢餓地帯の子供やアフリカのエイズ・ベイビーたちへの支援活動をしており、今回のフラッシングYMCAへの訪問も、そのPRの一環だった。そこでフラッシングYMCA及びニューヨークYMCA本部が「アフリカ人 → アフリカン-アメリカン → ハーレムYMCA」と、なんとも貧弱な連想ゲームを行ったのである。


美しくテーブル・セッティングされたフラッシングYMCAの一室で、シークレット・サービスに囲まれたLee Hee-hoさんと共に、アフリカのやせ細ったエイズ・ベイビーたちの映像を見せられた時、ハーレムYMCAのメンバーは一様に溜め息をついた。ミルクも飲めないほどに衰弱したエイズ・ベイビーたちを支援するのに人種・エスニックや国の区別は必要ないし、にこやかで若々しいLee Hee-hoさんのスピーチも素晴らしかった。しかし、フラッシングYMCAの幹部たち(韓国系アメリカ人)及び、ニューヨークYMCA本部の幹部たち(白人)はアフリカ人とアフリカン-アメリカンを混同しているのである。アメリカに暮らすアフリカン-アメリカンとってアフリカとは、大西洋の遥か彼方の、おそらく一生行くこともないであろう外国なのである。

What's New?に戻る

ホーム