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2000/11/05

愛情いっぱいの子育てダディとHIP HOP

 ダウンタウンからハーレムに向かう地下鉄2番線の中での風景。


 午後2時過ぎ、車内は比較的空いている。ふと見ると、ベビーバギーに赤ちゃんを乗せた若いアフリカン−アメリカンの男性が座っている。20代後半あたり、地味目なセーターにスラックスというすっきりした出立ち。おとなしくベビーバギーに収まっているベイビー・ガール(女の赤ちゃん)は、昼寝から覚めたばかりなのか、カフェオレ色の小さな手で目をこするような仕草。それを見た若いダディは、ピンクのタオルを赤ちゃんの首元にたくし寄せ、バッグから哺乳瓶を取り出してくわえさせた。その、なんとも慣れた手付きと、深い愛情のにじみ出たまなざし。


 ダディの隣りには、やはり若い黒人男性が座っている。オーバーサイズの鮮やかな黄色いジャケットとバギーなジーンズのせいで若く見えるけれど、20代半ばの感じ。さきほどからスマイルでベイビー・ガールを見つめていた彼が、ダディに話しかけた。
「可愛いね。何ヶ月?」
「18ヶ月になったところ」
「へぇ、うちの子は12ヶ月なんだけど、この子、18ヶ月にしては大きいよね」
「そうなんだ。重くて大変だ」
「それ、なに飲ませてるの?」
「リンゴ・ジュース」
「そう、あっ、降りなくちゃ。じゃ、Brother.」

・・・・・

 黒人社会にはシングル・マザーが多く、また一般的に黒人男性には強いマッチョ指向があり、ここでも子育てはやはり女性の仕事。けれども一方では男性たちも子供を愛して止まないし、真剣に子育てに取り組む父親もまた多い。


 そうやって母親と父親の両方から愛されて育った子供は、自然と女性・男性というふたつの性の存在を受け入れることから異性を尊重し、また精神的にも安定した人間となる可能性が高い。(もちろん、片親でもきちんと育つ子供が多いことも付け加えておく)


 アフリカン−アメリカンが作り出し、今や世界基準のエンターテインメントとなったヒップホップ。しかしラッパーの中には「bitch」を連発し、女性への蔑みが度を過ぎると批判されるアーティストが多く、いまだに半裸の女性を自分の回りにはべらせたビデオ・クリップもよく見かける。彼らアフリカン−アメリカン・ラッパーの過半数は、片親もしくは両親不在で育っている。

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