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2000/11/15

シティホール・マリッジ
市役所で結婚式


 友人がシティホール(市役所)で結婚式を挙げた。


 空気の冷たさが秋から冬へと切り替わる寸前の、11月のとある平日の午後。その日、共に仕事を休んだ日本人女性とアフリカン−アメリカン男性のカップルは、指輪と小さなブーケだけを持ってシティホールへ到着。


 まずは25ドルのセレモニー・フィー(結婚式料)を払うために支払い窓口へと行く。


 アメリカの婚姻は変わったシステムを取っている。実はセレモニーの前段階として、その24時間以上前(実質1日以上前)に市役所に来てマリッジ・ライセンス(結婚許可証)を取得しなければならず、カップルは都合2回、市役所に来ることとなる。


 支払い窓口前に並んでいる間、マリッジ・ライセンスを取りに来た人たちを眺める。白人、黒人、ラティーノ、アジア人と、あらゆる人種がいるし、インターレイシャル(異人種)カップルも見かける。また年齢も20代から50代ぐらいまで多岐に渡っている。3人の子供連れで来ている南米人カップルもいた。マリッジ・ライセンスの「離婚歴」欄には4回までの記入が出来るようになっている。


 ふと見ると、そこには頭にターバンを巻いた50絡みのインド人男性と、アフリカン・プリントのカラフルな布を頭に巻いた黒人女性のカップル。男性は太鼓腹をいっそう目立たせている薄汚れたセーターにスラックス姿で目付きが悪い。40代後半に見える女性の方はスラリと背が高く、きちんとした黒のコート姿で、ちぐはぐな取り合わせ。それぞれが同じ人種の友人を連れ、お互い話すこともあまりない様子で所在なげに順番を待っている。インド人とアフリカン−アメリカンが結婚? 若い人同士ならともかく、40代と50代で? 宗教を超えて? 間違いなく偽装結婚だ。


 母国での教育も仕事のキャリアもなく、不法移民としてアメリカにやって来た外国人がアメリカでの永住権を得るには、アメリカ市民との結婚しか道がない。一方、まとまった現金の欲しいアメリカ人は、アルバイト感覚で偽装結婚の片棒を担ぐ。偽装結婚代金の相場は人種にも拠るが、4,000〜5,000ドルと聞く。

・・・・・

 奇妙なカップルをその場に残し、結婚式が行われる市役所内のチャペルへと向かう。


 チャペル待合室の入り口には毛皮のコートを着た白人女性が立っている。私たちを見ると、「今、一瞬、結婚式が途切れたから休憩してたの。中は寒いから」と笑う。判事なのだ。彼女は私たちを室内奥の机に招き、マリッジ・ライセンスに署名するように告げる。新郎・新婦に続いて、私と友人が証人としてサインしている間に、次のカップルが待合室に入ってきた。


 カーリーヘアにニット・キャップ、同じく茶色のニットのジャケットに細身のフレア・ジーンズがヒッピー風な黒人女性と、やはりジーンズにロゴ入りトレーナーの白人男性。どちらも、せいぜい20〜22才。朗らかでチャーミングな女性が、笑顔で私の友人に話しかける。「私たち、証人がいないんだけど、あなたにお願いできるかな?」
友人は軽く引き受ける。「いいよ、でも、このカップルのセレモニーが済んでからね」
「ありがとう!」と新婦はまた笑い、友人にマリッジ・ライセンスへのサインを頼む。新郎はとても物静かなタイプのようで、このやり取りを黙って眺めている。


 「彼らもインターレイシャル(異人種)カップルね」と囁く私に友人が言う。「男のほうも黒人だよ。ほとんど白人に見えるけど、たぶん(黒人と白人の)ミックスだろう。髪を見た? ちょっとキンキーだろう?」

・・・・・

 判事に促され、若いカップルを待合室へ残して、奥のチャペルへと入る。チャペルといっても、あらゆる宗教の人に対応するために十字架など、特定の宗教をイメージさせるものは何もない。ただ判事が立つシンプルな祭壇があるだけ。その壇上から判事は、人柄の偲ばれる温かい笑顔で新郎・新婦に立ち位置を指示。新郎は黒いスーツ。白いシャツにダーク・ブルーのネクタイ。新婦も黒いタートルネック・セーターに、同じく黒のロング・スカート。シックなボルドーのスカーフに白いバラの小さなブーケ。友人がベストマン(付添人)として結婚指輪を持ち、新郎の脇に控える。写真を撮ってもいいかという私の問いに、判事はにこやかに答える。「ええ、どこから撮ってもまったく構わないわよ」
 やがて神妙な表情に戻った判事が決まり文句を読み上げ、新郎・新婦に問いかける。
「あなたは、この女性を妻として認めますか」
「I do.」
「あなたは、この男性を夫として認めますか」
「Yes, I do! 」
「では、指輪を交換してください」
 ダーク・ブラウンとベージュの指と指が交差して、ホワイトゴールドの指輪を交換。そして笑顔いっぱいのハグとキス。5分間のウェディング・セレモニーの終了。

・・・・・


 シティホールを後にした私たちは、 明るい午後の陽射しのなか、ダウンタウンのイタリアン・レストランへと向かった。

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