NYBCT

2001/05/07

決して混じらないサラダボール
グリニッジ・ビレッジのミドルクラス・ブラック

 ニューヨークは、雑多な人種が混じることなく共存しているという理由から「人種のサラダボール」と呼ばれている。けれど、実際はいろいろな食材が別々にパッケージされ、種類別に並んでいるスーパーマーケットの食品棚といったほうが良いのかもしれない。それぞれの食材が同じサラダボールのなかに並ぶことは滅多にない。


 ニューヨークは実は全米で最も人種区分のはっきりした都市だ。人々は人種別、出身国別のコミュニティを作ってそこに暮らし、自国の言葉や文化を守りながら、結婚・出産も同じ人種間、同国人間で行うことが多い。アフリカン−アメリカンの住むハーレム、プエルト・リカン地区であるスパニッシュ・ハーレム、ドミニカン地区のワシントン・ハイツ、コリアン・タウンとなっているフラッシング、イタリア系の多く住むベンソンハースト、ロシア系の街ブライトン・ビーチ etc., etc …。


 これらのコミュニティはしかし、新しいものが出来ると同時に、古いものは消滅していくという歴史を繰り返している。たとえばマンハッタンの最北端インウッドという地区は、かつてはアイリッシュの街だった。ところが15年ほど前にドミニカ共和国からの移民が大量に移り住み始め、そうすると白人たちは、とたんに他所の地区へと移動し、今ではインウッドに住むアイリッシュはほとんどいない。


 そんなニューヨークにあって、グリニッジ・ビレッジは多彩な人々の交わりを見ることができる地区だ。若い人やアーティスト、ゲイや異人種カップルが他地区に比べて極端に多い。黒人&白人、白人&アジア系(※注1)、アジア系&黒人、男女、男同士、女同士 …あらゆる人種・性別のカップルが通りを歩いている。白人男性と黒人男性が手をつないでいる姿などを見ると、ここはなんてフリーな場所なんだろう、と思わず目を見張らされる。

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 しかし、インウッドのアイリッシュ・コミュニティに起ったのと同じことが、実はグリニッジ・ビレッジでも起きている。6th アベニューに"UNO"という人気のピザ屋がある。テイクアウトではなく、ウェイトレスがテーブル席にオーダーを取りにくるレストラン形式の店だ。


 日曜の午後、UNO はショッピング・バッグを抱えた買い物帰りの客で混んでいた。ガラス貼りの店内からは通りが見える。相変わらず、あらゆる肌の色の人々が大勢行き来している。けれど、店内の客はと言えば、そのほとんどが黒人だ。あとはラティーノとアジア系で、白人はほんの数えるほど。


 ビレッジという場所柄、客は若い人ばかり。特に20代から30代前半の若い黒人女性と、その小さな子供たちが多い。みんなミドルクラス(中流層)で、母親も子供たちも着ているものは、おしゃれ。日曜日のショッピングを楽しんでから、ここに遅いランチ、または早めのディナーを食べに来ているのだ。ウェイター、ウェイトレスもほとんどが黒人。客席に座っている数少ない白人は、黒人やアジア系と一緒にやってきた友人たちで、白人同士の客は、広い店内にわずか2組だけ。


 この店もかつては白人客ばかりだったと言う。けれど徐々にミドルクラス化してきた黒人たちはビレッジにもやって来るようになり、彼らのお気に入りとなった店には、やがて白人は来なくなる。同じ現象が、ヒップな靴屋、ブティック、ボディピアス屋などの集まる8th ストリート にも起きつつある。NYU(ニューヨーク大学)にも近いこのストリートは、いつも若い人の溜まり場となっているけれど、ここ2〜3年で黒人がどんどん増え、それに伴い白人の数が減ってきているように見える。ここでも若い黒人のミドルクラス化は顕著で、8th ストリート は今や、カワサキなど日本製の高価なカスタム・バイクを持つ黒人ライダーたちが、自慢のマシンを披露する場にもなっている。けれど、白人ライダーの姿は見かけたことがない。

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 マイノリティが流入すると、白人が他所へ移る。これは白人の持つ“差別意識”と、白人/黒人が共に持っている“区別意識”が相まって起る現象だと思われる。では“区別意識”とは、一体何なのか? (続く)


※注1=アメリカでいうところの「アジア系」には、中国・韓国・日本、東南アジア系の他にインド・パキスタン、中近東まで入る。

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