ハーレム

2001/08/31

夏の終りに〜
ハーレム舗道の風景


 八月最後の日の午後は、激しい雷雨となった。急に暗くなった空にとどろく雷鳴と土砂降りの雨。これで今年のニューヨークの夏も終りかもしれない。


 夏のあいだ、ハーレムには表(おもて)で一日の大半を過ごす人々が多い。無職の人たちやお年寄りはもちろん、ハーレムのような低所得地域には掃除夫やガードマンといった夜勤職の人が多く、彼らも昼間は表に出る。たいていの建物の入り口にはストゥープと呼ばれる4、5段の階段がついていて、人々はそこに座り、子供を目の前の舗道で遊ばせながら話をしたり、お互いの髪を編んだり、時には何かを飲みながら、ただ通行人を眺めていたり。「あら、元気? そう、元気なの、それは良かった」知り合いが通りかかると、お互いに声を掛け合う。


 ストゥープのないアパートに住む人々は、自宅からわざわざイスを持ち出して建物の前に座り、やはり、そこで一日のほとんどを過ごす。朝から舗道に出て、午後になって太陽が移動して陽射しが当たるようになると、なんと人々はイスと共に車道を渡り、反対側の日陰になった舗道に、やはり座り続ける。


 とある古ぼけた商店の前には、いつも同じおじさんたちが座っている。店の奥から長いホースを引き、舗道に植えられた街路樹の枝に括り付けたミネラル・ウォーターの特大ボトルにつなげている。ボトルには小さな穴がたくさん空けてあり、要するに街路樹からシャワーのように水が降り注ぐ仕組み。おじさんたちはイスに座って日がな一日喋りながら、それを見て涼んでいるのだ。"Hello Lady! How're you doin'?"(お嬢さん。ご機嫌いかがかな?)気が向けば通行人の女性に声を掛けては楽しんでもいる。


 さらにはテーブルまで持ち出してドミノやカード・ゲームに興じていたり、それを取り囲んでゲームの進行を見物している男たちも多い。掛け金は小銭でやり取りしていることもある。つまり1ドル以下なのだ。


 若い男たちも無職だと、やはり昼間から表に出る。ストリート・ファッションでキメていたり、カーステやラジカセでヒップホップを鳴らしていたりはするけれど、要は一日中することもなくブラブラしているだけ。"Yo! Cutie!!"(よぅ、可愛い子ちゃん!)と、やはりヒマつぶしに通りすがりの女の子に声を掛けているけれど、年配のおじさんたちのような礼儀正しさはない。


 でも子供たちは元気だ。夏空の下、暑さも気にせずキックボードや自転車を乗り回したり、ダブルダッチ(縄跳び)に夢中だったり、アイスクリーム・トラックに行列を作ったり。バスケットボール・コートでは年上の少年たちがプレイしているし、わざわざビルの壁に取り付けたプラスチック製のカゴを代用にシュートしている男の子たちもいる。


 やがて日が暮れる。たいていの親や祖父母は適当な時間でストゥープから腰を上げ、子供を連れて自宅に戻る。ところが通称プロジェクトと呼ばれる低所得者団地に行ってみると、夜中の12時を過ぎても、まだ人々は団地前の舗道にたむろしているし、子供たちも昼間と変わらない様子で遊んでいる。彼らは夕食を終えたのちに、また表に出るのだ。


 そんな人々も深夜を過ぎるとやがては自宅に戻り、ベッドに入る。そして翌朝。人々はまた、ひとりふたりと舗道に出てきてはお互いに挨拶を交わし、そして、そのまま一日をそこで過ごす。


 こんなハーレムの夏の風景も、もうすぐ終る。

ハーレム135丁目の風景 #01〜春
ハーレム135丁目の風景 #02〜夏の舗道
ハーレム135丁目の風景 #03〜夏の初めの昼下がり
ハーレム150丁目の風景 #01
ハーレム150丁目の風景 #02

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