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2001/11/16

白人になりたかったマイケルと
黒人の男たち



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 マイケル・ジャクソンがニュー・アルバム「Invincible(=無敵)」をリリースした。それに合わせてテレビでは彼のビデオ・クリップ特集を、これでもかと言うほど頻繁にオンエアし続けている。


 マイケル・ジャクソンのビデオを年代順に見るということは、すなわち彼の整形手術と皮膚の漂白の過程を見るということ。それぞれの時代背景を物語る衣装やサウンド作り、そしてなんといってもマイケルの天才的なダンスに目を奪われてはいても、そのルックスの劇的な変遷には、やはり空恐ろしいものを感じる。


 そして新曲「You Rock My World」のビデオ。マフィア風のスーツに身を包んで踊るマイケルの、まるでプラスチックで出来ているかのような顔。共演のクリス・タッカーのエネルギーに溢れた顔つきに比べ、マイケルのそれはもう生身の人間のものとは思えない。さらにダンスのステップにも昔のようなキレはなく、大きな動きも出来なくなっている。まったく痛ましいとしか言いようがない。曲自体もマイケル・ジャクソンの王道サウンド…というより、ほとんどセルフパロディのようだ。


 ところが、このニュー・アルバムはビルボード・チャートで初登場1位となった。それこそ人種も問わず老若男女が買っている様子。この、アルバム・タイトルどおりの無敵というか、不滅の人気の理由は一体なんなのだろう。特に彼と同じ黒人男性の間での。

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 黒人男性は、一般的には白人男性への敵対心が相当に強い。たとえば若い白人男性がブラック・スラングを口にしているのを耳にしたときなど、「だせーんだよ。真似すんなよ、白人のくせによ」といった反応を見せるし、ことあるごとに「White boy」「White people」と、さも馬鹿にしたように、もしくは吐き捨てるようにつぶやく。そして自分たちこそがクールなんだと主張する。だから間違っても白人になりたいなどとは、口に出さない。


 そんな黒人の男たちが、誰がどう見ても白人になろうと試みたとしか思えないマイケル・ジャクソンを「嫌わない」どころか、「愛している」のだ。白人変身願望以外にも、あのかぼそい声や話し方、お城を建ててチンパンジーと同居といった類いのファンシーな奇行にも、本来ならばマッチョ指向の黒人男性は耐えられないはずだし、さらには幼児性愛説、ゲイ説といった、多くの黒人男性がもっとも嫌う類いの噂もマイケルにはつきまとったにもかかわらず。

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 友人のJ.D.は「今度のアルバムは最高だよ」と言いながらコンポのボリュームを思いっきり上げる。彼は今27歳だから、マイケル・ジャクソンがデビューした頃にはまだ生まれていもいない。「スリラー」リリース時にやっと8歳、「BAD」で13歳だ。つまりJ.D.の世代は、ちょうど物心がついた頃にあの名作ビデオ・クリップ「スリラー」を体験し、以後MTV世代としてマイケルの音楽と共に成長してきたのだ。もちろん、この世代はヒップホップ・ジェネレーションであるけれど、マイケルもまた、彼らの音楽の原風景なのだ。


 J.D.に、マイケルが白人になりたがっていることが気にならないのかと訊いてみた。
 「彼は白人になりたがっているわけじゃないよ、皮膚の病気なんだよ」 誰も本当だとは思っていないマイケルの世間向け釈明を、J.D.も信じてはいないはずなのに、言い訳のように繰り返す。


 別の友人ロジャーは50代。ジャクソン・ファイブが活躍していた頃には既に20代だったから、当時から今に至るまでマイケルのヒット曲はすべて知っているという。そのロジャーはマイケルのデビュー30周年コンサートをテレビで見ながら盛んに言う。「見てみろよ、あの顔! なんてこった! 歌も口パクだし、ロクに踊ることも出来ないじゃないか!」「昔は物凄い天才ダンサーだったのに、自分で自分を破壊してしまったんだよ、マイケルは」。そうは言いながらも、画面のマイケルに目がくぎ付けだ。


 ロジャーにも、なぜそこまでマイケルが偉大なのかと訊いてみた。
「だって天才じゃないか。彼の音楽とダンスはあまりにも素晴らしかっただろう。こんな天才はふたりといないよ」「でもまだ43歳だっていうのに、これじゃジェームス・ブラウンのほうがよっぽどシャッキリしているよ…」最後はそう言って残念そうにため息をつく。やはりロジャーもまた、マイケルを「愛している」のだ。

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 マイケルがジャクソン・ファイブのメンバーとしてデビューしたのが1969年。以来、マイケルはつねに黒人ファンからだけではなく、白人ファンにも愛されてきた。音楽シーンにも人種の棲み分けがあった時代に、マイケルは軽々とその垣根を超えていた。それだけでも当時を知る黒人にとっては大きな尊敬に値するのだ。


 そして、黒人男性が決して口にはしないセリフ「白人になりたい」を、実践してしまったマイケル。黒人で、しかも男であれば、誰もが計り知れないほどのプレッシャーや差別の経験を持つ。だから彼らは「もし、自分が白人だったら…、もし、白人になれたら…」と想像したり願ったりしたことが、一度ならずあるはずだ。マイケルが自分の身体にしてしまったことは、さすがにやり過ぎだと誰もが思っている。それでも「白人になりたい」と願い、それを実行したマイケルの痛ましいまでの心情を、いちばん深く理解しているのは、彼と同じ黒人男性なのだ。

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