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2002/01/31

ゲットー
Ghetto

 『ハーレムってゲットーでさ、なんかコワいけど、でも、イイよね。きっとジャンキーやギャングのメンバーが歩き回ってて、銃声なんかも聞こえてきて、うっかり歩いてたら速攻でカネ、巻き上げられそうだよね』。

 ふむ。確かにハーレムのかなりの部分は、いわゆるゲットーかもしれない。ということは、ここに住む黒人のすべてがアル中またはジャンキー、もしくは日々ドラッグ売買にいそしむギャングなのだろうか? 他人の金を巻き上げたりしない黒人は存在しないのだろうか?

125丁目

商店
 『ハーレム再開発などして欲しくないのです。今のままのブラックカルチャーを保存して欲しいのです、とっても貴重なものなのですから』。

 ふーむ。確かにハーレムは黒人文化のメッカと呼ばれている。ここにしかないであろう、貴重なものはたくさんある。これはほんと。加えて「大企業(白人資本)の流入は新たな搾取」という主張も正しいのかもしれない、ある点に於ては。
 けれど、いったい誰が自宅の近所にある朽ち果てた廃虚ビルをいつまでも“保存”したいと願うだろう。そんなものは早くきれいに改装されて、まともな隣人が越してきてくれるほうが有難いに決まっている。誰だって毎日、安心して暮らしたいのだ。

廃虚

アパートメント
 ハーレム八番街に小綺麗なアパートメント・ビルがある。昔はホテルだった瀟洒な建物を改装したもので、今では中流クラスの人々が暮らしている。それは路上に停めてある車種を見ても判る。そこそこに良い車ばかりだ。

 最近はハーレム中にたくさんある廃虚ビルを改装し、新たに貸し出すというプロジェクトが進んでいて、スポンサーである大手銀行の看板をあちこちで見かける。(もっとも改装による家賃高騰で行き場のなくなる人が出ないように、アパートは低所得者用/中流向け/高級をそれぞれ適正な数、作るべきなのだけれど…。)

 先のアパートを通り過ぎて角を曲ったところに、とんでもない廃虚ビルがある。屋根も窓ガラスもとっくになくなり、がらんどうになった部屋の内部が見える。ゴミで埋まった空き地越しに見るその姿は、まさに無残。まじめに働いて快適なアパートを手に入れた人々ですら、地下鉄駅からの帰り道にはこの廃虚の前を通らなくてはならないのだ。もし、ここに強盗やレイプ犯でも潜んでいたら…。

 その辺りからそんなには離れていないところにハミルトン・テラスというハーレムの高級住宅地区がある。アポロ・シアターの支配人がここにあった古いタウンハウスを買い取り、驚くなかれ160万ドルをかけて改装したそうだ。こんなに豪勢な人もここハーレムには暮らしているのだ。

 地下鉄の車掌/教師/生活保護金受給者/マクドナルドの店員/宅配便のドライバー/ジャンキー/医者/小学生/ウォール・ストリート勤務/シングル・マザー/会社経営者/ゴミ収拾作業員/弁護士/警察官/売れないミュージシャン/大学生/ホームレス/商店主/一流ミュージシャン/主婦/ドラッグ・ディーラー/ビルの警備員/大学教授/ウェブ・デザイナー/露天商 etc., etc.......

 あらゆる職種の黒人、つまり貧乏人から金持ちまでがハーレムには住んでいる。要するにニューヨークという大都市の中に、ハーレムという黒人小都市が内在するかのように。

ハミルトンテラス

シュガーヒルビストロ
 では、なぜ成功を手にした後ですら黒人はハーレムに住み続けるのか? それには陰と陽のふたつの答えがあり、ニューヨーク・タイムズに掲載された先のアポロ支配人夫婦のインタビューからも、それが伺える。

 夫は、子供の頃に当時住んでいたブロンクスから両親の友人を訊ねてハーレムに遊びにきていた楽しい思い出があると言う。一方、コロンビア大学歯科口腔外科の助教授である妻は、これまで住んでいた白人の多い高級住宅地では、近所の住人からメイドに間違われることが時々あり、これでは「コミュニティ(自分の街)に暮らしている」という気は当然しなかったと言う。




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