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2001/07/01

映画『ベイビー・ボーイ』
キュートでセクシーで甘えた男たち
プラス2001夏〜秋コレクション

 1988年に公開されたスパイク・リーの映画『ドゥ・ザ・ライト・シング』は、大きな衝撃を当時の映画界に与えた。それに触発されて多くの若い黒人映画監督が、その直後に次々とデビューを果たしたけれど、中でもとりわけ印象的だったのが、当時弱冠24歳のジョン・シングルトンによる1991年の『ボーイズン・ザ・フッド』。


 この作品は、ギャングのはびこる危険な黒人地区で少年が成長することの困難さと、男の子にとってロール・モデル(見本、手本)となる父親の存在がいかに大切かを訴えている。なぜなら黒人の子供の実に多くが“フッド”と呼ばれるスラムやゲットーで、シングル・マザーの手によって育てられているからだ。

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 それから10年、シングルトン監督が『ボーイズン・ザ・フッド』の続編『ベイビー・ボーイ』を作った。続編とは言っても、舞台が前作と同じLAのサウス・セントラルというだけで、登場人物はまったく違うし、前作がシリアスなドラマだったのに対し、今回はかなりユーモラスに仕立ててある。それでも前作が主人公の少年が高校生になるまでの成長物語であり、今回も20歳の青年がいかにして本物の大人になるか、というストーリーだから、やはり続編と言って良い。


 (あらすじ)無職の青年ジョディ(タイリース・ギブソン)は、ふたりのガールフレンドとの間にそれぞれ子供を持っているが、子育てはガールフレンドに任せ、いまだに母親の家で呑気に暮らしている。しかし、ガールフレンドのひとりイヴェットのアパートに、刑務所から出所したばかりの元恋人(スヌープ・ドッグ)が転がり込んできたうえ、折しも母親の家を追い出されたジョディは、とうとう大人になるための試練を踏むことに…。

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 この映画は出だしからいきなり、黒人の男はまるで子供だ、という断定で始まり、以後、ジョディのベイビー・ボーイ振り=幼さを描いたシーンがたっぷり挿入されている。では、そもそも黒人男性がいつまでたっても“ベイビー・ボーイ”な、その理由は?


 映画の登場人物はいずれもミドルクラスで、差別問題もここでは特に描かれていない。それでも現実には差別、貧困という厳しい環境が黒人の特に若い男性を取り巻いていて、そういった背景が高校ドロップアウト、ギャングやドラッグ・ディーラーからの誘惑といった問題を引き起こす。またシングル・マザー(離婚するのではなく、10代で妊娠し、結婚せずに子供を産む)に育てられた彼らは、自分のガールフレンドをシングル・マザーにしてしまうことに何の疑問も抱いていない。


 こう言ってしまうと、黒人男性がいつまでたっても大人としての責任を果たさない“ベイビー・ボーイ”なのは社会のシステムに原因があるように見える。事実その通りなのだけれど、実はジョディの母親やガールフレンドのような女性がそういった“ベイビー・ボーイ”の存在を許してしまっている部分も大きい。彼女たちは、ひたすら男を甘やかし続ける。

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 ジョディの母親は36歳という設定で、つまり16歳でジョディを産んでいる。当然シングル・マザーで、ジョディの父親も無責任な男だったと言う。なのに、ガールフレンドとのトラブルをグチるジョディを「あんたは、ちょっとわがままね」と言って諭す。…20歳でふたりのガールフレンドを掛け持ちして子供まで作り、それでも職探しすらしない男が“ちょっと”わがまま???


 電話会社に勤めながら、ひとりでジョディとの子供を育てているイヴェットは、ため息をつきながら女友達に言う。「ジョディはママと住んでいて、私とは一緒に暮らさないわよ。彼はお母さんっ子なのよ」…それで済む問題? ジョディの父親としての責任は???

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 主人公役のタイリース・ギブソンはキュートでセクシーだし、他のキャラクターの出来も良く(特に母親の恋人役のヴィング・レイムス。スヌープも好演)、笑えるシーンも多い。ひょっとしたら、これを見た若い黒人男性の何人かは“脱ベイビー・ボーイ宣言”をするかもしれない。でも、ベイビー・ボーイな恋人を持つ女性たちに「私の彼はだめね。なんとかしなくちゃ」と思わせるだけのパワーは、残念ながら、この映画には無いように思える。


・公式サイト:
http://www.spe.sony.com/movies/babyboy/


【おまけ:全米公開真近のブラック・ムービー】

●“О”
8/31公開予定
出演:メキ(メカイ)・ファイファー
監督:ティム・ブレイク・ネルソン

シェイクスピアの『オセロ』を、高校のバスケットボール・シーンを舞台に書き換えた作品。


●Two Can Play That Game
9/7公開予定
出演:ヴィヴィカ・А・フォックス、モリス・チェスナット
監督:マーク・ブラウン

『ブラザーズ』に主演したモリス・チェスナットのロマンティック・コメディ。


●Training Day
9/21公開予定
出演:デンゼル・ワシントン、イーサン・ホーク、スヌープ・ドッグ、ドクター・ドレ、メイシー・グレイ
監督:Antoine Fuqua

新米刑事(イーサン・ホーク)の相棒となったのは、ベテラン汚職刑事(デンゼル・ワシントン)だった。デンゼルが悪役に挑戦。ドクター・ドレも刑事役(←いいのか?)


●Bones
10/26公開予定
出演:スヌープ・ドッグ、パム・グリアー
監督:アーネスト・ディッカーソン

街の世話役だった人気者ジミー・ボーンズ(スヌープ・ドッグ)が裏切り者に殺されてから20年。その恨みを晴らし、暴力とドラッグがはびこった街を一掃するために幽霊となったボーンズが帰ってきた…というホラー映画。パム・グリアーがボーンズの恋人役。凄いというか、ヘンなキャスティング。でも予告編でのスヌープはカッコ良かったです。


●Pimp
秋頃公開予定
出演:アイス・キューブ
監督:ビル・デューク

実在のポン引き、ロバート“アイスバーグ・スリム”ベックが1969年に出版した自伝的小説の映画化。




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