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2001/10/22

1980年代のブラック・ムービー


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 1980年代の『優れた』ブラック・ムービーって正直言うと存在しない … かも。70年代はご存知のようにブラックスプロイテーションが一大ブームとなり、90年代に入るとスパイク・リーの登場により、黒人社会を描いたブラック・ムービー(および「ハウス・パーティ」など、一連のブラック・コメディ映画)が一気に花開いたわけですが、そのはざまの80年代は、いわば過渡期であり、目立った作品はありませんでした。


 ただし、この80年代にはウーピー・ゴールドバーグ、エディ・マーフィというふたりのスーパースターが誕生しており、「黒人が主人公であっても、白人も楽しめるアクション・エンターテインメント映画、ただし監督は白人」という新しいジャンルが作り上げられました。ウーピーもデビュー作品こそ「カラー・パープル」ですが、初期はコメディ系のアクション/サスペンスが多かったのです。


 これが90年代のブラック・ムービー・ブームの下地のひとつになったと思います。映画会社も黒人映画が客を呼べると知り、また白人オーディエンスにも「自分は見には行かないが、黒人映画もあっていいか」程度の認識を植え付けたのではないでしょうか。(それから10年経った現在も、アメリカでは多くの白人は、やはりブラック・ムービーを観ません。主人公だけが黒人で、あとは白人キャストという作品は受け入れられていますが。もっとも観客のほとんどすべてが黒人であるブラック・ムービーに白人客は来づらいという理由もありますが)


 もちろん、90年代のブラック・ムービー・ブームを作った本当の理由は、黒人フィルム・メイカーたちの「自分たち自身の作品を作りたい」という情熱です。それが1989年にスパイク・リーの4作目「ドゥ・ザ・ライト・シング」として実を結び、90年代の爆発的ブラック・ムービー・ブームを導き出したのです。


 ところがこのスパイク・リーも、ニューヨーク大学映画科の卒業製作として「ジョーズ・バーバーショップ」を撮ったのが1983年、彼に続いて90年代に続々とデビューしたフィルム・メイカーたち(ジョン・シングルトン、ヒューズ兄弟他)も80年代からすでに製作活動や、もしくはフィルムメイカーになるための準備段階に入っていたはずです。けれどこの時点では、ほとんどの作家は表舞台に立つことはできませんでした。


 また、現在、第一線で活躍している黒人/ラティーノ俳優たちも80年代から活動を始めてはいましたが、その多くはスパイク・リーの90年代前半までの作品に出演したことが、その後の成功への大きなステップになっています。例えば…




俳優

出演作
サミュエル・L・ジャクソン 1988「スクール・デイズ」
1989「ドゥ・ザ・ライト・シング」
1990「モ・ベター・ブルース」
1991「ジャングル・フィーバー」
ジャンカルロ・エスポジート 1988「スクール・デイズ」
1989「ドゥ・ザ・ライト・シング」
1990「モ・ベター・ブルース」
1992「マルコムX」
デンゼル・ワシントン 1990「モ・ベター・ブルース」
1992「マルコムX」
ウェズリー・スナイプス 1990「モ・ベター・ブルース」
1991「ジャングル・フィーバー」
アンジェラ・バセット 1992「マルコムX」
ロージー・ペレス 1989「ドゥ・ザ・ライト・シング」
ローレンス・フィッシュバーン 1988「スクール・デイズ」
マーティン・ローレンス 1989「ドゥ・ザ・ライト・シング」

サミュエル・L・ジャクソン
タイムズスクエアにあるマダム・タッソー蝋人形館のサミュエル・L・ジャクソン
ここまで大物になろうとは、10年前には誰も思わなかったですね。



 もっともデンゼル・ワシントンは「モ・ベター・ブルース」(1990)出演以前から、他の黒人俳優とは違った独自なキャリアを築きつつありましたが。(下記ディスコグラフィ参照)


 実は黒人差別問題をテーマに取り上げた作品も80年代にいくつか作られていますが、いずれも監督と主人公が白人であり、『白人側から見た黒人差別問題』『黒人差別問題に立ち向かった白人もいた』という視点で作られています。これらは映画としての出来は良くても、本当の意味でのブラック・ムービーとは言い難いのです。


 なお、この時期にひとり、面白い人物がいます。ジョン・セイルズというインディーズ監督/作家/俳優です。白人なのですが、1984年に「ブラザー・フロム・アナザー・プラネット」というハーレムを舞台にした風変わりな作品を作っており、その後も「マルコムX」(1992)や、2Pacの遺作となった「グリッドロック」(1997)に脇役で出演したり、昨年はサンダンスでグランプリ&最優秀監督賞を受賞して話題となった、ニューヨークのラティーノの女の子を主人公にしたボクシング物語「ガールファイト」にプロデューサーとして関わっていたりしています。(監督のカリン・クサマ監督はジョン・セイルズのアシスタントだった。なおクサマ監督は日米のミックス)


 いずれにしても80年代のブラック・ムービー・シーンは、やはり90年代への準備期間であったといえます。でも、そこには実験的な作品や、また白人客へのアプローチ、商業的成功への模索もあり、そういった観点から80年代の作品を見直してみると、とても興味深いものがあります。


以下に80年代にすでに活躍していた黒人俳優のおもな出演作品と、80年代の、黒人をテーマとした作品をいくつか挙げておきます。


●エディ・マーフィ
1989 Harlem Nights(アクション/サスペンス)
1988 Coming to America(コメディ)
1987 Beverly Hills Cop II(アクション/サスペンス)
1986 The Golden Child(アクション/サスペンス)
1984 Beverly Hills Cop(アクション/サスペンス)
1983 Trading Places(コメディ)
1982 48 Hrs.(アクション/サスペンス)(映画デビュー作品)


●ウーピー・ゴールドバーグ
1989 Homer and Eddie(コメディ)
1989 The Long Walk Home(人種差別)
1988 Clara's Heart(ドラマ)
1987 Fatal Beauty(アクション/サスペンス)
1987 Burglar(アクション/サスペンス)
1987 The Telephone(コメディ)
1986 Jumpin' Jack Flash(アクション/サスペンス)
1985 The Color Purple(黒人女性の苦難)(実質的映画デビュー作品)


●デンゼル・ワシントン
1989 For Queen and Country(英国/黒人差別)
1989 Glory(南北戦争/黒人兵)(アカデミー最優秀助演男優賞受賞)
1987 Cry Freedom(南ア/人種差別)(アカデミー最優秀助演男優賞ノミネート)
1984 A Soldier's Story(第二次世界大戦/軍隊内の黒人差別)


●モーガン・フリーマン
1989 Driving Miss Daisy(ドラマ)(アカデミー最優秀主演男優賞受賞)
1989 Lean on Me(熱血校長先生)
1987 Street Smart(売春婦のヒモ)


●ダニー・グローバー
1987 Lethal Weapon(アクション/サスペンス)
1985 The Color Purple(黒人女性の苦難)


●スパイク・リー(監督)
1989 Do the Right Thing
1988 School Daze
1986 She's Gotta Have It
1983 Joe's Bed-Stuy Barbershop: We Cut Heads




●ブルース・ブラザーズ/The Blues Brothers
1980 監督:ジョン・ランディス

ブルース・ブラザーズと名乗るふたり(ジョン・ベルーシ&ダン・エイクロイド)がコンサートを開くまでの騒動。ジェームス・ブラウン、アレサ・フランクリンなど、黒人ミュージシャンが多数出演。



●コットン・クラブ/The Cotton Club
1984  監督:フランシス・コッポラ

1920〜30年代のハーレム。現存するコットン・クラブも黒人エンターテイナーが出演し、白人客だけがそれを楽しめるクラブだった。



●ブラザー・フロム・アナザー・プラネット/The Brother From Another Planet
1984 監督:ジョン・セイルズ

他の惑星から地球に逃亡してきた、なぜか外見が黒人な奴隷(ジョン・モートン)とハーレムの住人とのおかしな交流。



●バグダッド・カフェ/Bagdad Cafe
1987 監督:パーシー・アドロン

迷子になった西ドイツからの観光客(マリアンネ・ゼーゲブレヒト)は、砂漠にポツネンと建つカフェの居候となり、そこの黒人女性経営者(C.C.H.パウンダー)との奇妙な友情を育む。



●カラーズ・天使の消えた街/Colors
1988  監督:デニス・ホッパー

ロス市警の警官(ショーン・ペン、ロバート・デュバル)が黒人&ラティーノ・ギャングを相手に苦闘する。



●ミシシッピー・バーニング/Mississippi Burning
1988 監督:アラン・パーカー

1964年にミシシッピ州で3人の公民権運動家がKKKによって殺害された実話に基づくストーリー。ジーン・ハックマン、ウィレム・ディフォー演じる白人FBI捜査官が深南部に乗り込み、事件を捜査する。



●背信の日々/Betrayed
1988  監督:コスタ・ガブラス

デブラ・ウィンガー演じるFBI覆面捜査官が、アメリカ南部でKKKに潜伏調査するうちに、人種差別主義者である男と恋に落ちる。



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