NYBCT

2002/02/08

映画・コンサート・展覧会・テレビ・本など

今回はちょっと軽めに、最近観た映画、コンサート、展覧会、読んだ本などについて。




映画「Monster's Ball」●


まだまだ信じられないほど強烈な黒人差別が残るアメリカ南部で、刑務所員の白人男(ビリー・ボブ・ソーントン)と、夫が死刑に処された黒人女(ハリー・ベリー)が出逢い…。


最初は“美しすぎる”という理由で出演を断られたハリー・ベリーが、監督を説得し続けて役をゲットした渾身の一作。彼女はこの作品でゴールデン・グローブ賞の主演女優賞にノミネートされた。


ハリー・ベリーは黒人と白人のミックスで、それが彼女に“黒人差別”に対する複雑な思いを持たせている、と本人は言う。


朴訥(ぼくとつ)で、けれど一本筋の通った南部男を演じたモス・デフは、もはやラッパーの片手間出演なではなく、役者そのもの。対してピー・デディ(と呼ぶのもなんだか馬鹿げているパフ・ダディ)は、出演している理由が不明。役を欲しがっている優秀な黒人男優はたくさんいるというのに。


ちなみに“モンスターズ・ボール”とは、希望通りの食事、家族との面会など、死刑囚に与えられる最期のもてなしのこと。


映画公式サイト
http://www.monstersballthefilm.com/




●映画「Pinero」●



1970年代に活躍し、イーストビレッジにある
“ニューヨリカン・ポエッツ・カフェ”を創設した実在のプエルトリカン詩人、ミゲル・ピニェーロの伝記映画。プエルトリカンによるアートをテーマにしているところは、とても貴重。


ニューヨリカンとはニューヨークに暮らすプエルトリカンのこと。故郷プエルトリコに帰ったピニェーロが、地元の人々から「お前たちは、もはやプエルトリカンではない」的な扱いをされるシーンは、とても印象的。ニューヨーカー or プエルトリカン…ここにも表れる、どっちつかずの、ふたつのアイデンティティ。


アメリカでは人気のドラマ「Law & Order」の刑事役で、またはジュリア・ロバーツの元恋人として知られるベンジャミン・ブラットが、これまでのクリーンカットなイメージを覆す熱演。ポエトリー・リーディングのシーンも見事にこなしている。けれど、やはり育ちの良さが出てしまい(?)、麻薬中毒ゆえに友人(ジャンカルロ・エスポジート)のテレビすら盗んで売り飛ばしてしまうピニェーロのダーティさは、残念、出ていない。


ベンジャミン・ブラットは一見、なに人だか分からない不思議なルックス。母親がペルー人で、父親は白人。この人もまたミックスなのだ。



彼の出演した映画の中でいちばん記憶に残っているのは、LAの混沌としたラティーノ・コミュニティで育つ3人の少年の人生を追った「ブラッド・イン、ブラッド・アウト」。


映画公式サイト
http://www.miramaxhighlights.com/pinero/




●アリシア・キーズ・コンサート●
@ラジオシティ・ミュージックホール


歌っている時は成熟した大人の女のオーラ。曲の合間のおしゃべりや、おそらく本人がアイデアを出したであろう舞台構成は、まるでティーンエイジャーのような無邪気さ。アリシア・キーズはつい先月、21歳になったばかりなのだ。


ニューヨーク/マンハッタンのヘルズ・キッチン育ちの彼女は、ニューヨークのどこにでもある、ごくありふれたアパートの外観をステージ・セットに選んだ。アパート入り口のストゥープと呼ばれる階段にバック・バンドが立つ。そのアパート内部で繰り広げられる、男と女のすれ違いをコミカルに語って見せるアリシア。


実はアリシアもバイレイシャル(異人種間に生まれた人)。はっきりと書かれたバイオはないけれど、母親はおそらくイタリア系の白人ではないかと思われる。白人の母親と黒人白人ミックスの子供が、当時はまだまだ荒っぽい地区だったヘルズ・キッチンで暮らすのは、かなり大変だっただろう。


けれど小さな頃からクラシック・ピアノを習い続けたアリシアは、リズム重視のヒップホップ世代の中では際立ったメロディのセンスと作曲能力を持っている。しかも頭も良かった彼女は、16歳で高校を卒業し、コロンビア大学に入学。けれど音楽に没頭していたから、すぐに退学してしまう。


音楽の才能・頭脳・美貌・タフさを併せ持つアリシア・キーズは、今後がものすごく楽しみな逸材。




●ローレンス・ジェイコブ展●
@ホイットニー美術館


2年前に亡くなった黒人画家の展覧会。40cm×50cm程度の小さな紙にテンペラで描かれた絵画群。カラフルな原色の絵具を使っても、それがテンペラだと特有の鈍いトーンを生み、独特の色合いとなる。


1930年代に仕事を求めて南部から東海岸に大量に移住した黒人たちの姿が、80枚もの作品により一連の物語として描かれている。そして1940年代の活気溢れるハーレムの姿。


雪の降りしきる週末ですら、展覧会は順番待ちの行列ができるほどの盛況だった。


アーティスト公式サイト
http://www.jacoblawrence.org/




●オレの色は死だ/アイスT●


ラッパーのアイスTが書いた本。「ゲットーとはなにか」「ゲットーで暮らすとは、どういうことか」が、シンプルな言葉で、これ以上はないというほどにはっきりと記されている。ゲットーで生まれ育ったわけではない人間がゲットー製ヒップホップの本質を理解するのに役立つ(かも)。


「子供の教育」にもかなりのページ数が割かれていて、彼が刹那的にギャングスタ・ラッパーであることを楽しんでいたわけではないことも分かる。もっとも書かれている内容すべてに賛同することは、とてもできないけれど。


ところで、しつこくバイレイシャル・ネタ。アイスTの子供“リトル・アイス”も母親がメイキシカンなので、やはりミックス。これからの世の中はバイレイシャルな人たちが重要なキーになるのかも。


なお、アイスTも高視聴率の刑事ドラマ「Law & Order」で刑事を演じていて、ドラマの中では殺人犯やギャングを逮捕しまくっている。昔はギャングだったくせに。


この本(ブルース・インターアクションズ刊)は残念ながら、ほぼ絶版ですが、大手書店なら在庫があるかも。もしくは以下で。
http://www.amazon.co.jp
原題は「The Ice Opinion」なので「オレの色は死だ」という邦題はちょっとどうかと。




●ザ・バーニー・マック・ショー●


今、こちらで人気の黒人向けシットコム(コメディ・ドラマ)。スパイク・リーが撮った「ジ・オリジナル・キングス・オブ・コメディ」の一員であり、最近では「オーシャン・イレブン」でカジノ・ディーラーを演じているバーニー・マックが、妹の子供3人を引き取るはめになったコメディアン役。プロジェクト(低所得者団地)育ちの子供たちに手を焼くアンクル・バーニーの姿に、アメリカ中(の、少なくとも黒人)が毎週爆笑。


それにしても、まったくありふれた設定なのに、どうしてこんなに人気があるのだろう。実はバーニー・マック自身もシカゴのゲットー育ちで、しかも家族のことではかなり苦労をしていて、そこから子育てには一家言あるらしい。その昔ながらの「タフ・ラブ」(厳しい子育て法)が、今では新鮮に映るらしいのだ。最近は黒人家庭でも甘い親が多いから。


一方、デーモン・ウェイアンズが、やはり子供3人のパパを演じている「My Wife & Kids」は、不思議なほどおもしろくない。妙に理解ある父親振りだから?


番組公式サイト
http://www.fox.com/berniemac/



What's New?に戻る
ブラックムービーに戻る

ホーム