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2002/02/28

アカデミー賞 最優秀「黒人」主演賞

 今年もアカデミー賞が3月24日(日本時間3月25日)に開催される。今回(2001年度)は、最優秀主演女優賞/男優賞に黒人俳優3人がノミネートされたことが、アメリカでは大きな話題となっている。女優賞:ハリー・ベリー「モンスターズ・ボール」、男優賞:デンゼル・ワシントン「トレーニング・デイ」、ウィル・スミス「アリ」の3人だ。


 けれど、今年で第74回という長い歴史を持つアカデミー賞に於て、黒人俳優が最優秀主演賞を獲得したのは、驚くべきことに1963年のシドニー・ポワチエ「野のユリ」の1回のみ。黒人俳優がノミネートされた年は昨年までの73回のうち11回、ノミネートされた人数は延べ14人で、受賞に至ったのはシドニー・ポワチエひとりだけ。以下は1980年以降で黒人俳優がノミネートされた年の候補者リスト。▲マークが黒人俳優。


第58回(1985)
受賞:ジェラルディン・ペイジ「バウンティフルへの旅」
メリル・ストリープ「愛と哀しみの果て」
アン・バンクロフト「アグネス」
ジェシカ・ラング 「スウィート・ドリーム」
▲ウーピー・ゴールドバーグ「カラーパープル」


第59回(1986)
受賞:ポール・ニューマン「ハスラー2」
ウィリアム・ハート 「愛は静けさの中に」
ジェームズ・ウッズ 「サルバドル/遥かなる日々」
ボブ・ホスキンス 「モナリザ」
▲デクスター・ゴードン「ラウンド・ミッドナイト」


第62回(1989)
受賞:ダニエル・デイ・ルイス 「マイ・レフトフット」
ロビン・ウィリアムス 「いまを生きる」
トム・クルーズ 「7月4日に生まれて」
ケネス・ブラナー 「ヘンリー五世」
▲モーガン・フリーマン 「ドライビング Miss デイジー」


第65回(1992)
受賞:アル・パチーノ「セント・オブ・ウーマン/夢の香り」
クリント・イーストウッド 「許されざる者」
スティーブン・レイ 「クライング・ゲーム」
ロバート・ダウニーJr 「チャーリー」
▲デンゼル・ワシントン 「マルコムX」


第66回(1993)
受賞:トム・ハンクス「フィラデルフィア」
ダニエル・デイ・ルイス 「父の祈りを」
アンソニー・ホプキンス 「日の名残り」
リーアム・ニーソン「シンドラーのリスト」
▲ローレンス・フィッシュバーン「TINA/ティナ」


第66回(1993)
受賞:ホリー・ハンター 「ピアノ・レッスン」
デブラ・ウィンガー 「永遠の愛に生きて」
エマ・トンプソン 「日の名残り」
ストッカード・チャニング「私に近い6人の他人」
▲アンジェラ・バセット「TINA/ティナ」


第67回(1994)
受賞:トム・ハンクス「フォレスト・ガンプ/一期一会」
ジョン・トラボルタ「パルプ・フィクション」
ポール・ニューマン 「ノーバディーズ・フール」
▲モーガン・フリーマン 「ショーシャンクの空に」


第72回(1999)
受賞:ケヴィン・スペイシー「アメリカン・ビューティー」
ラッセル・クロウ「インサイダー」
リチャード・ファーンズワース「ストレイト・ストーリー」
ショーン・ペン「スウィート&ローダウン」
▲デンゼル・ワシントン「ザ・ハリケーン」


第74回(2001)
受賞:?
ラッセル・クロウ「ビューティフル・マインド」
ショーン・ペン「アイ・アム・サム」
トム・ウィルキンソン「イン・ザ・ベッドルーム」
▲ウィル・スミス「アリ」
▲デンゼル・ワシントン
「トレーニング・デイ」


第74回(2001)
受賞:?
ジュディ・デンチ「アイリス」
ニコール・キッドマン「ムーラン・ルージュ」
シシー・スペイセク「イン・ザ・ベッドルーム」
レニー・ゼルウィガー「ブリジッド・ジョーンズの日記」
▲ハリー・ベリー「モンスターズ・ボール」


 以前「1980年代のブラックムービー」に書いたように、80年代には優れたブラックムービーはあまり作られていない。また白人であっても、あの名優アル・パチーノですら何回ノミネートされてもその度に受賞を逃し、1992年に「セント・オブ・ウーマン/夢の香り」でついにオスカーを手にするまでは“無冠の帝王”と呼ばれていた、というケースがある。そう考えると、デンゼル・ワシントンとモーガン・フリーマンが過去に2回ずつノミネートされながら、いずれも受賞できなかったのも仕方がない? 上記のリストに上っている他の黒人俳優が誰も受賞できなかったのも偶然?


 ではアメリカの音楽シーンはどうだろう? ちょうど昨日に開催されたグラミー賞に関して言えば、R&B、ヒップホップ、ゴスペル、ブルース、ジャズなどといった、いわゆる黒人音楽がカテゴリーとして儲けられており、当然、黒人受賞者の数もかなり多い。また黒人ミュージシャンのCDの売上げも高く、それはビルボードのトップ200などを見れば一目瞭然。アメリカの全人口のうち黒人は13%(※ニューヨーク市では25%)しかいないのだから、黒人だけにウケてもチャートには食い込めないはず。つまり、白人も黒人音楽を聴いているのだ。中西部の白人しか住んでいない小さな街でも、白人ティーンエイジャーは今はラップを聴いている。また音楽業界のトップにはラッセル・シモンズなどの黒人エグゼクティブが既に存在し、彼らがシーンを作り、動かしているという側面もある。


 これに対して、白人はブラックムービーを観ない、という事実がある。これはアメリカの映画館でブラックムービーを観てみると良く分かる。もちろん作品にもよるけれど、観客は黒人とラティーノばかりで、白人客はほとんど見かけられない。(「モンスターズ・ボール」には白人客が多かった) また映画界のエグゼクティブには黒人はいない。したがって黒人の思考や嗜好を反映した映画も作られにくい。


 それにしても、どんなに理由をあれこれ並べてみたところで、73年間もの間に「最優秀」と認められた黒人俳優がたったひとりだけで、それも38年も昔の話、というのは一体???


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