NYBCT

2002/03/25

ドアは開かれた
アカデミー賞最優秀主演賞


 昨夜のアカデミー賞でデンゼル・ワシントン、ハリー・ベリーが最優秀主演賞を受賞した。男女そろって黒人俳優が取ったのだ。もちろん史上初のことで、こちらでは大騒ぎとなっている。加えてシドニー・ポワチエが特別功労賞を受賞し、ショーのホストはウーピー・ゴールドバーグ。まるで“ブラック・アカデミー賞元年”とでも言える内容だった。


 今朝、ニューヨークの2大大衆紙ニューヨーク・ポストとデイリー・ニューズは、一面に同じ「History」=「歴史(的出来事)」という大見出しをつけてこれを報じた。他のメディアが3/25に出した記事のタイトルを見ても、やはり「これは歴史だ」「彼らは歴史を作った」「ベリーとワシントンはオスカーの歴史を作った」など、「History」という言葉が目立つ。


 ふたりの受賞がアメリカ映画界において、これほどまでに大きな出来事である理由は、2/28に発行した
メルマガ #122「アカデミー賞最優秀“黒人”主演賞」の以下の部分を読んでもらえれば判ると思う。


『今年もアカデミー賞が3月24日(日本時間3月25日)に開催される。今回は、最優秀主演女優賞/男優賞に黒人俳優3人がノミネートされたことが、アメリカでは大きな話題となっている。(中略)けれど、今年で第74回という長い歴史を持つアカデミー賞に於て、黒人俳優が最優秀主演賞を獲得したのは、驚くべきことに1963年のシドニー・ポワチエ「野のユリ」の1回のみ。黒人俳優がノミネートされた年は昨年までの73回のうち11回、ノミネートされた人数は延べ14人で、受賞に至ったのはシドニー・ポワチエひとりだけ』

・・・・・

 史上初の黒人最優秀主演女優賞を獲得したハリー・ベリーは涙を流しながらの受賞スピーチで、1950年代の黒人女優ドロシー・ダンドリッジの名を挙げた。ドロシー・ダンドリッジは“黒人のマリリン・モンロー”と呼ばれた美貌の持ち主で、1954年に映画「カルメン・ジョーンズ」に主演し、黒人女優として初めてアカデミー最優秀女優賞にノミネートされた。けれど受賞は果たせず、また当時は黒人女優には主演のチャンスはほとんどなく、次の出演作まで3年待たなければならなかったという。数年後、結局ドロシー・ダンドリッジはクラブ・シンガーに戻り、最後は抗鬱剤の過剰摂取で1965年に命を落としている。ハリー・ベリーは1999年に、このドロシー・ダンドリッジの伝記映画に主演し、エグゼクティブ・プロデューサーも務めている。


 ハリー・ベリーは「74年。(黒人女性がこの賞を取るために)こんなに長い時間がかかった」、「この賞は、これまで名もなく顔も知られていなかった黒人女優たちのため。彼女たちには今、チャンスができた。今夜、ドアは開かれた」と受賞スピーチを続けた。


 ハリー・ベリーの受賞が発表された瞬間、テレビの前の黒人たちは彼女の受賞に驚き、喜んだ。けれど中には怒りも見せた者もいた。最優秀女優賞をハリー・ベリーが取った以上、デンゼル・ワシントンの受賞はあり得ない、男女そろって黒人が受賞するなんて絶対にあり得ない、と思ったのだ。それどころか、デンゼル・ワシントンに受賞させたくないがために、敢えてハリー・ベリーに賞を贈ったのではないかと、そこまで勘ぐった。そしてハリー・ベリーよりもデンゼル・ワシントンこそが、そのキャリアからして受賞するべきだと思ったのだ。


 ところがデンゼル・ワシントンも受賞した。誰にとっても本当に驚きだった。普段のインタビューなどではあまり感情を見せない彼も、さすがに嬉しそうで、受賞スピーチでは「一晩で(黒人が)2人?」と冗談すら口にした。このジョークは彼自身、アカデミーが黒人2人に最優秀賞を独占させるとは思っていなかったことの証拠だろう。


 デンゼル・ワシントンは過去に「マルコムX」('92)と「ハリケーン」('99)で2回ノミネートされながら受賞を逃している。特に「ハリケーン」では自身の演技に対する自信と、他のノミネート俳優との比較からだろう、賞を取れると確信していたらしく、受賞できなかったことがことのほか堪えたらしい。その怒りが、今回の受賞対象作品「トレーニング・デイ」で演じた悪役警官に反映されているとニューズ・ウィーク誌のインタビューで語っている。

・・・・・

ドアは開かれた。

・・・・・

 最優秀作品賞候補「ゴスフォード・パーク」を紹介した時、ホストのウーピー・ゴールドバーグはメイドの制服を来て登場した。これは映画の内容に合わせたコスチュームだったのだけれど、実はそれ以上の意味も込められていて、黒人聴視者はやはり驚いた。黒人俳優で初めてアカデミーにノミネートされたのが、1939年「風と共に去りぬ」のメイド役ハティ・マクダニエル(助演女優賞)であったことが象徴するように、長いあいだ黒人女優にはメイドの役しかなかった。ウーピーですら「ロング・ウォーク・ホーム」('89)、「コリーナ・コリーナ」('94)で メイドを演じている。(もっともこの2作では脇役としてのメイドではなく、主演・準主演) そんな黒人女優の過去と現在をウーピーは面白がっていたのかもしれない。とにかく今年、ようやくドアは開かれた。

・・・・・

(追記1)個人的には、デンゼル・ワシントンの受賞は当然だと思った反面、ハリー・ベリーの受賞は少し?。彼女の「モンスターズ・ボール(チョコレート)」での演技は確かに素晴らしかったけれど、今年は「イン・ザ・ベッドルーム」のシシー・スペイセクに贈られるべきだと思っていたので。


(追記2)これまで受賞やノミネートを逃してきた黒人俳優たち、なかでも特にモーガン・フリーマン、ウーピー・ゴールドバーグ、アンジェラ・バセット、サミュエル・L・ジャクソン、ローレンス・フィッシュバーン、アルフレ・ウッダートに来年以降、チャンスが巡ってきますように。



What's New?に戻る
ブラックムービーに戻る

ホーム