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2003/01/29

ボウリング・フォー・コロンバイン

アホでマヌケなアメリカ白人


 今、日本でも映画『ボウリング・フォー・コロンバイン Bowling for Columbine』と、同作品の監督マイケル・ムーアが書いた本『アホでマヌケなアメリカ白人 Stupid White Men』が話題になっていると聞いた。

ボウリング・フォー・コロンバイン
Bowling for Columbine

アホでマヌケなアメリカ白人
Stupid White Men
日本語訳「アホでマヌケなアメリカ白人」
とは表紙が違う

 映画『ボウリング・フォー・コロンバイン』は、アメリカの<銃問題>を取り上げたドキュメンタリー作品。タイトルは、1999年にコロラド州のコロンバイン高校でふたりの少年が起こした銃乱射事件から付けられている。


 監督のマイケル・ムーアは、その巨体をひきずって全米を駆けめぐり、恐れ知らずの体当たり取材を敢行する。と言っても、取材対象に舌鋒鋭く迫るのではなく、あくまで<近所の人の良いおっさん>的態度でユルユルと攻める。しかも笑わせて、いや爆笑さえさせてくれる。ただし、切り込みの鋭さは半端ではない。これがこの作品がアメリカはもちろん、世界各国の映画祭で高く評価されている理由だ。


 マイケル・ムーア。ミシガン州出身。18歳で高校の教育委員会会長に立候補し(生徒会会長ではない。普通は教育問題に知識・関心のある大人が付くポジション)、驚くべきことに当選。以来、社会活動家として映画制作、著作業、テレビ出演などを通して活躍。現在44歳。


 映画のなかでマイケル・ムーアは、その呑気そうに見える風貌や喋り方とは裏腹に、データ数値も交え、アメリカ銃社会の驚くべき実態を次々と明らかにしていく。さらには観客の笑いを誘う、妙に腰の低い態度で、しかし、ひるむことなく全米ライフル協会NRAの会長チャールトン・ヘストンにも食い下がっていく。ちなみにチャールトン・ヘストンとは、言うまでもなく『十戒』('57) や『ベン・ハー』('59)などで知られる誉れ高き名優。しかし、同時に極端な銃礼賛者、人種差別主義者として悪名も高く、マイケル・ムーアはインタビューの際に人種差別発言を引き出してしまう。そう、マイケル・ムーアは黒人問題、貧困問題にも大きな関心を寄せているのだ。


 映画の中に『サウス・パーク』のクリエイターが作ったショート・アニメが挿入されている。(『サウス・パーク』とは、絵はまるで幼児向けのかわいらしさながら、子供にはとても見せられないブラックジョーク満載のアニメ。wowowで放映中)この爆笑必至のショート・アニメでマイケル・ムーアは、アメリカの銃の伝統を<恐怖の歴史>と結びつけている。


訂正)マイケル・ムーアは公式ウエブサイト(日本語版)で、あのアニメは『サウス・パーク』のクリエイターではなく、自分と友人で作ったと書いている。本当なのだろうけれど、あそこまで『サウスパーク』にそっくりのタッチで作ってしまって、それは問題ではないのか?

 イギリスでの迫害を恐れて新大陸にやってきたピューリタン、インディアンを恐れて討伐しようとした開拓民、黒人を恐れて迫害してきた白人。過度な銃への依存は、常に恐れから来ているという。


 しかし…。黒人の反逆を恐れて銃で武装する白人、というのは、昔なら理解できた。事実、奴隷制の時代から公民権運動の盛んだった時代には、多くの白人は怒れる黒人の反撃を常に恐れ、銃を構えていたはず。けれど現在では、白人が黒人を撃つことはほとんどない。白人警官が黒人容疑者(もしくは容疑者と間違えられた悲運な黒人)を撃つケースは後をたたないけれど、白人の一般市民は黒人を撃たない。しかし、黒人は黒人を撃つ。黒人社会の中で、貧しい者同士が撃ち合っているのだ。


 マイケル・ムーアも、もちろん、そのことは分かっている。貧困も銃蔓延の理由のひとつだとして、貧しい黒人母子家庭の悲劇を取り上げている。しかし、これは黒人少年が白人の少女を撃ってしまった事件であり、ブラック・オン・ブラック(黒人対黒人)ではない。


 著書『アホでマヌケなアメリカ白人』では、恐れを知らないブッシュ大統領批判を延々と繰り広げるマイケル・ムーア。「ジョージよ、君は成人レベルの読み書きができるのか?」と問いかけ、同時にブッシュの過去の情けない逮捕歴を暴露する。いかにアメリカといえども、自国の大統領をここまで批判することはジャーナリストとして、相当な勇気が必要だ。幸い(?)なことに、この本は9.11直前に書かれており、9.11以後のブッシュ大統領の言動については触れられていない。(それでも最初の発刊予定日が9.11直後だったので、一時は発行を止められた)もしマイケル・ムーアが9.11以後のブッシュ大統領について書けば、おそらく彼は活動の場を一切奪われてしまうだろう。


 これほど真摯で勇気(蛮勇?)のあるマイケル・ムーアも、自身が白人であるため、黒人社会の内部には、実は切り込めないでいる。映画では<恐怖の歴史=白人vs黒人>と、現在の<貧困黒人社会に於ける銃の蔓延=黒人vs黒人>の関連をうまく説明し切れていない。『アホでマヌケなアメリカ白人』でも、「第4章:白人野郎を殺せ Kill Whity」として黒人問題にまるまる一章を割いているけれど、内容は章題が示すように、黒人差別をする白人がいかにマヌケか、黒人差別をなくすために白人がなにをしなくてはならないか、ということであって、黒人自身がなにをするべきかについては書かれていない。


 白人が黒人社会に対して「あれをしろ」「これはするな」と発言すれば、黒人からたちまち非難の嵐を浴びるはず。それこそ「大きなお世話だ、白人野郎!」と。だからマイケル・ムーアの手法(黒人を批判せず、白人に反省を促す)は、白人でありながら黒人に受け入れられるためには賢明なのかもしれない。


 いずれにしても、ジャーナリスト生命を賭して大統領をあれだけケナすマイケル・ムーアすら、黒人社会への率直な意見は差し控えてしまう。これは、アメリカの抱える黒人問題がいかに根深いかを物語っているように思えてならない。


 そんな穿った読みはさておき、アメリカという国の病巣を知るには絶好の作品だし、でも、こんな国にもヒューマニティを信じて、なんとかしようとしている人間がいるということも分かる。加えて、派手な映画や番組ばかりがもてはやされる今の風潮にあって、敬遠されがちなドキュメンタリーの新しい可能性を見ることも出来る。ぜひ、観てみてください。そして、読んでみてください。



お礼

 ブルースマン、テッド・ウィリアムスの来日公演は大成功し、テッドは無事ニューヨークに帰ってきました。たくさんの人が来てくれたと、テッドもご満悦です。みなさん、どうもありがとうございました。



お知らせ

 ヒップホップ世代の天才タップ・ダンサー、セヴィアン・グローバーが来日!
とても残念なことに、これも東京オンリーですが、ブロードウェイで喝采を浴びたショー「ノイズ&ファンク」を再演します。私も公演パンフレットにエッセイと写真を提供します。

内容:http://www.noise-funk.com/
公演スケジュール:
http://www.tbs.co.jp/p-guide/event/noise/index-j.html

参照:セヴィアン出演、スパイク・リー監督の映画『Bamboozled』についてのエッセイはこちら。(この作品、日本ではVHS/DVD化されていないんですね…)
http://www.nybct.com/3-08-bamboozled.html



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