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2004/08/18




映画『コラテラル』
役者としてのジェイミー・フォックス


 ジェイミー・フォックス主演の最新作『コラテラル Collateral』を観た。……こんな書き方をすると、映画会社は喜ばないだろうな。一般的にはもちろん「トム・クルーズ最新作」ということになってるから。ただし、「共演のジェイミー・フォックスがトム・クルーズと互角の演技」というレビューがすでにあちこちの新聞や雑誌に出ている。「互角」? いやいや、それ以上だと思うけど。


 今回、トム・クルーズはリチャード・ギアばりの白髪に変身し、スタイリッシュなスーツを着こなすクールな殺し屋ヴィンセントを演じている。ノートブックで標的のデータをチェックしながらLA市内をタクシーで回り、一夜のうちになんと5人を殺すのだ。


 そんなヴィンセントをたまたま拾ってしまった不運なタクシー運転手が、ジェイミー・フォックス演じるマックス。マックスは病気の母親の面倒を見ながら12年間タクシーを走らせてきた真面目な男。つまり、キレイ好きという以外にこれといった特徴もない、ひたすら地味な男が、冷血殺人マシーンを乗せて一晩中、死のドライブをするはめになるのだ。タイトルの『コラテラル』とは「巻き添え」という意味。


 余談:この映画でトム・クルーズが殺す予定の5人には白人、ラティーノ、アジア系、黒人がバランスよく含まれている。なかなかポリティカリー・コレクトな映画である。


 さてさて、これまで常にオール・アメリカン・ボーイ(*2)を演じてきたトム・クルーズにとって、外観はクールで中身はクレイジーな殺し屋とは「おいしい」キャラクターだ。とことん演じ切ればアカデミー賞ノミネートも可能だったと思う。


 ところがジェイミー・フォックスの「ジミ男」ぶりが凄まじく上出来で、トム・クルーズの影がかすんでしまった。映画を見終わった後も、銀髪のトム・クルーズではなく、銀ブチ眼鏡をかけたジェイミー・フォックスの押さえた演技(「な、な、な、なんなんだよ、これは……」と狼狽しつつ、グチる)がじわーんと余韻を残す。


 ジェイミー・フォックスの本業は、実はコメディアン。ヒネリなしの直球系ギャグに物まねと歌を添えて笑いを取るタイプ。わたし的にはキツいジョークで黒人社会を斬りまくるクリス・ロックの方が良いと思うけど、アメリカでは分かりやすいギャグはウケがいいのだ。


 ところが、アメフト映画『エニイ・ギブン・サンデー』(95/監督:オリバー・ストーン、主演:アル・パチーノ、共演:LLクールJ)での選手役、 モハメッド・アリの伝記映画『Ali』(01/監督:マイケル・マン、主演:ウィル・スミス)でのセコンド役により、本業よりも演技に才能があることが発覚。それまで何本かのシットコム(TVコメディドラマ)や映画で騒がしいか、または間の抜けたキャラクターを演じてきたジェイミー・フォックスが、役者として強い印象を観客に与えた始めた。


 『Ali』を監督したマイケル・マンも驚くと同時に感服したのではないかな。だからこそ、今回の『コラテラル』でジェイミー・フォックスを再度、使ったのだろう。


 実はジェイミー・フォックスは昨年、テレビ映画でかなり難しい役に挑戦している。『Redemption(贖罪-しょくざい)』(03)だ。実在するロサンゼルスのギャング団クリップス(*2)の創始者トゥーキー・ウィリアムズの人生を、これまた押さえに押さえた演技で渋く演じ切った。


 さて、役者として今後もますます期待大のジェイミー・フォックスの次作は、今年亡くなったレイ・チャールズの伝記映画。後年のレイ・チャールズを演じるにはまだ若すぎる気もするけれど、レイ・チャールズのイカれた陽気さはうまく演じてくれそう。なにより音楽もかなりこなせる人だしね。いやいや、来年の公開が今から本当に楽しみ、楽しみ。


*1=「All American Boy」とはアメリカでもっとも好まれるタイプの若い男性を指す。気さくで明るい性格、さわやかな笑顔、スポーツが得意などなど……要するに「トップガン」「ア・フュー・グッドメン」「ザ・エージェント」などのトム・クルーズ


*2=クリップスは青のバンダナ、対抗するブラッズは赤のバンダナを着用する。日本の「カラーギャング」の原形だが、日本のそれとは比較にならないコワさ



コラテラル公式サイト(日本今秋公開予定)


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