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2005/08/18


イマジネーション・フィルム・フェスティバル



20日、21日はハーレムウィーク・ストリートフェスティバルだ。ハーレム135丁目にいろいろなブースがぎっしりと並び、特設ステージでのコンサートも楽しいお祭り。でも、毎年このフェスティバルが終わると、あぁ、夏もそろそろ終わりだなぁと少し淋しくも感じる。


でも、夫は今、そんな感傷にひたるヒマもなく、すごい勢いで動き回っている。去年から友人たちと一緒に、仕事の合間に(というより週末はすべて費やして)『Harlem Currents』なるDVDマガジンを作っているのだ。ハーレムの現状を、ハーレムに暮らす人々へのインタビューや街の風景でレポートするという内容。


夫の本業は団体職員だが、DVDプロジェクトではプロデューサー兼ディレクター兼シナリオライター兼インタビュアー兼……。


ビデオグラファーのシドロックスは私が昨年、雑誌でインタビューをしたヒップホップ系マルチメディアマン。インタビュー以後、なんだかんだで夫と親しくなり、今ではヒップホップとハーレムの両方を二足のわらじで撮っている。


プロダクション業務全般を担っているローザは古い友人。3人の若い娘がいるとはとても思えない、若々しくエネルギッシュな女性だ。実は私は彼女もインタビューしている。ドミニカ共和国からの移民で、いろいろな経験を持っていることを以前から知っていたので、世界各国からニューヨークにやってきた移民へのインタビュー特集に登場してもらったのだ。


こんな風にまったく異なるバックグラウンドを持つ3人がハーレムという共通項で集まり、映像を作っているのだ。


去年に続いてハーレムウィークではブースを出して上映宣伝販売するのに加え、今年は同じ日に開催されるイマジネーション・インディペンデント・フィルムフェスティバルでも上映してもらえることになった。






フィルムフェスのメイン作品はスパイク・リーの新作ショートフィルム『ジーザス・チルドレン・オブ・アメリカ』。HIVポジティブとして生まれたティーンエイジャーの女の子の物語だ。当日はスパイク・リーも来る予定。



ハーレムのドキュメンタリー作家、ビル・マイルズもレクチャーをする。彼はハーレムの歴史ドキュメンタリーTVシリーズ『アイ・リメンバー・ハーレム』で知られる人物で、今回のDVDマガジン最新号ではナレーターをお願いした。派手な語り口ではないけれど、なんとも味わいのある話し方をする人なのだ。



こういった成り行きでフィルムフェス当日にスパイク・リーと会うことになるビルが、こんな話をしてくれた。



もう20年以上も前のこと。ビルがスタジオで『アイ・リメンバー・ハーレム』の編集作業をしていると、小柄な若者が入ってきてスパイクと名乗った。ヘンな名前だなと思ったけれど、彼が「いったい、どうやってこんなフィルムを作ることができたのか」と訊くので、ビルは「あきらめずに、やり通すことだね」と答えたという。



スパイク・リーのいう「こんなフィルム」とは、「白人資本の映画会社やテレビ局がなかなか出資したがらない黒人ネタの作品」という意味だ。



アメリカ総人口の約7割を占める白人の多くは、黒人関連の作品、中でも白人による激しい黒人差別が描かれる作品を見たがらない。映画会社やテレビ局はビジネス上、そういった作品を敬遠する傾向にある。当時は今以上にそうだったことと思う。



けれどスパイク・リーはビルの言葉通り、あきらめずにがんばった 。数年後、ビルはスパイク・リーから『シーズ・ガッタ・ハヴ・イット』試写会の招待状を受け取った。その後のスパイク・リーの活躍は周知の事実だ。



ビルも根気よく出資者探しを続けながら(映画ってね、作品を作ってる時間より出資者探しをしている時間のほうが多いんだよ)黒人史を追い続け、1992年に『リベレーター』という、第2次世界大戦時の黒人部隊を取り上げた作品でアカデミー賞ベスト・ドキュメンタリー部門にノミネートされている。








ビルは黒人史にまつわる貴重な古い写真をたくさん持っている。それは同業者の間に知れ渡り、映画会社、テレビ局などから「資料写真を貸してほしい」と連絡が入る。



昨年、デンゼル・ワシントンが1970年代のハーレムに実在したギャング、パンピー・ジョンソンを演じる映画が作られようとしていた。



バンピーは、ベトナムで戦死した米兵の遺体がアメリカに送り返されてくる際、その棺の中にドラッグを隠して密輸したという伝説の人物だ。映画の時代考証などをするリサーチャーがビルに、バンピー関連の写真を持っていないかと問い合わせをしてきた。



その時、ビルは「ギャングはあまり写真を撮らせなかったから、難しいな」と言った。「バンピーの昔の仲間が今でもたむろしているバーがあるけれど、リサーチャーは白人女性だからね、ちょっと連れていけないしなぁ」



結局、なんらかの都合によって映画の制作自体がキャンセルとなってしまった。残念だ。ちなみに現在、デンゼル・ワシントンはブロードウェイショー『ジュリアス・シーザー』を終え、スパイク・リーとの4本目の作品『インサイド・マン』をニューヨークのブルックリンで撮影中。共演はなんとジョディ・フォスター。









ハーレムウィークとイマジネーション・フィルム・フェスの告知のはずが、なんだかんだと長くなった。長文ついでに、前回のメルマガでやたらと長いレビューを書いたドキュメンタリー『ブレット・イン・ザ・フッド』(目の前で親友を撃ち殺された若者が撮影したアンチ銃作品)も今回のフィルムフェスで上映される。ニューヨーク在住、ちょうどニューヨーク旅行中で、興味のある方はどうぞ。







ブラックコミュニティに暮らす年齢もバックグラウンドもさまざまな人たちが、さまざまなテーマで今日も映像作りに取り組み続けているのだなぁ。


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