NYBCT

2005/04/06



インサイド・マン
スパイク・リー + デンゼル・ワシントン




Inside Man


 スパイク・リー、やったね。「インサイド・マン」公開第1週目のボックスオフィス第1位!



 本当に久しぶりのヒット作となった。長かったね、ここまで。


 というか、最終的にはアメリカだけで9000万ドルの興業収入を見積もられていて、スパイク・リー&デンゼル・ワシントンの共作としてはもちろん、スパイクにとっても、デンゼルにとっても、最大のヒット作ということになる。




 ちょっと驚き? デンゼル・ワシントンがアカデミー賞最優秀男優賞を取った「トレーニングデイ」(00)、同作のハードコア・イメージを引き継いだ
「マイ・ボディガード(Man on Fire)」(04)が共に77〜7800万ドルだったので、それを軽く追い抜くということ。


 スパイク&デンゼルの代表作「マルコムX」(92)は名作とされながらも、実は4800万ドルしか稼いでいない。いくら優れた作品であっても、黒人問題を描いたものは、やはり黒人オーディエンス以外には観てもらえないのだ。



■3人の登場人物


 オタクな数字の話は置いておくとして、今回の「インサイド・マン」に、かつてのスパイクのトレードマークである<黒人問題>を求める人は、観ない方がいいかも。

 「インサイド・マン」は、マンハッタンの金融街ウォール・ストリートを舞台にした銀行強盗サスペンス。犯人(クライブ・オーウェン)と、刑事(デンゼル・ワシントン)と、銀行主から派遣された交渉人(ジョディ・フォスター)の、手に汗を握る三つ巴戦だ。


 寡黙な知能犯を演じるクライブ・オーウェンは、じんわりと良い味を出している。デンゼルは、優秀だけれど虚栄心の強い刑事を好演。ハデなスーツとフェドラ帽が笑える。ちょっと中年太りの気配も出ているし。(テレビのインタビューで「スーツが小さいんだよ」と言い訳ジョークを披露していた。) シャープな交渉人を演じるジョディ・フォスターは、先の2人に比べて出番が少ない割りには、強い印象を残す。この中の誰か1人が主演というわけではなく、3人のアンサンブルによって成り立っている作品だ。



■エスニック・ジョーク


 今回、スパイクはシナリオを書いていない。けれどストーリーのあちこちに、スパイクならではのエスニック・ジョーク、ニューヨーク・ジョークがちりばめられている。中にはデンゼルがアドリブで発したセリフもあるそうな。


 これらのジョークが字幕でどれほど再現できるのか分からないけれど、ニューヨークのエスニック事情に興味のある人のために、いくつか紹介してみる。(いずれも本筋とは関係ない部分での会話なのでネタバレにはならないけれど、劇場で観るまで待ちたい人は以下を読まないでください。)


●デンゼル演じる刑事と話をしていたイタリア系の警官が、黒人の犯罪者のことを思わず「ニガー」と言いそうになり、あわてて「アフリカンアメリカン」と言い直す。(ニューヨークにはイタリア系とアイルランド系の警官が多く、黒人への態度が厳しいことで知られる。)


●ターバンを巻いたシーク教徒の男性が、公共の場で常に警官などからチェックの対象にされると不平を言うと、デンゼル演じる刑事が、「タクシーはつかまえられるだろ」とジョークを飛ばす。(ニューヨークのタクシー運転手には、パキスタンなどからの移民であるシーク教徒が多い。彼らはタクシー強盗されることを恐れ、黒人男性を乗車拒否することがある。)


●銀行強盗の人質となり、開放された黒人少年が刑事に「怖かったかい?」と聞かれ、その返事が「怖くなんかなかったよ。だってボクはブルックリンに住んでるんだぜ」(現在、ニューヨーク市内でもっとも治安が悪いとされているのはブルックリンの東部。)


●若き日のアル・パチーノが主演の名作「ドッグデイ・アフタヌーン」の引用もあって、シリアスな映画ファンにはちょっと嬉しいかも。(この作品もニューヨークを舞台にした銀行強盗映画。)


●スパイク・リーは普段からギャングスタ・ヒップホップを激しく批判していて、映画の中でも50セントをほぼ名指しで非難するシーンがある。



■結 論


 「インサイド・マン」はよく練られたサスペンス映画であり、それをハマリ役の3人の優れた俳優が演じ、スパイクならではのエスニック・ジョークと社会批判が振りかけられた佳作。アカデミー賞を取るとは思わないけれど、まず、観てソンは無しの作品でしょう。この作品でお金と信用を取り戻したスパイクの、次作を待つ。


映画公式サイト
 
http://www.insideman.net/(英語)
 
http://www.insideman.jp/(日本語)日本6月10日公開


※今年、ケーブルテレビ局HBOでオンエアされる予定の「When the Levees Broke(堤防が決壊した時 )」は、ハリケーン・カトリーナで壊滅したニューオーリンズを撮ったドキュメンタリー。こちらは思いっきり人種問題と政治を語ったものになっている模様


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