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映画「チェンジングレーン」
ニューヨーカーの光と影〜この街で生き抜くためのふたつの顔

 ニューヨーカーとは、ファッション雑誌に登場するリッチでスタイリッシュな人々だけを指す言葉ではない。この混沌とした都市に住む、あらゆる人種と所得階層の人間すべてを含んでいる。

 この「チェンジング・レーン」は主役が黒人と白人ではあるが、人種間の摩擦を描いたものではなく、時には人種よりもさらに深刻な問題となる<持てる者と持たざる者>との対比にスポットが当てられている。

 100万ドル単位の金を動かすために、ウォール街にあるモダンなオフィスやメトロポリタン美術館を飛び回っている若き弁護士ギャビン(ベン・アフレック)と、クイーンズの荒んだ地下鉄7番線沿線に、精一杯の努力の証として古い家を買おうとしているアル中の保険セールスマン、ドイル(サミュエル・L・ジャクソン)の、なんという境遇の違い。

 だが、ここには単純な<富める者は傲慢/貧しい者は清い>の図式はなく、登場人物の多くが善と悪の境界線を往き来する。それが最も際だっているのが、他人の生活をコンピュータのキーひとつで破滅させるプロのハッカー、フィンチ。この男は最終実行キーを押す寸前に「相手に電話をして話し合え」と依頼主に忠告する。そうかと思えば、ニューヨークの上流社会に属するギャビンの妻は、はかなげな上品さの中に驚くほどの強欲さを隠し持っている。ギャビンの上司や同僚も状況次第で複雑な裏の顔を見せる。

 ニューヨークという一見華やかで、その実どこよりもシビアなこの街で生きていくために、誰もが日々、善と悪の綱渡りを続けている。その綱渡りをしている人間こそが、ニューヨーカーなのだ。


「チェンジング・レーン」DVD 初回特典ブックレット
(2003年)より転載





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