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スターバックス
〜Starbucks〜
アメリカンブランド こぼれ話 #01


 朝はトールサイズ・コーヒーをテイクアウトするために遅刻すれすれで立ち寄り、午後はミーティングの場として使う。そして時には上司の目をかすめてオフィスを抜け出し、ひとりでこっそりラテやモカ、夏ならフラペチーノを楽む…。全米最大のコーヒー・ショップ・チェーン:スターバックスに、今や私たちはすっかり虜(とりこ)状態だ。


 今や街の風景の一部となってしまったスターバックスの緑色のロゴは、よく見るとふたつの尻尾を持つ人魚。これは、その美声に惹かれて船員が思わず近寄ってしまうという神話の人魚セイレーン。そうか、ついフラフラと“スタバ”に入ってしまう理由はこれだったのか。ちなみに店名の由来は、メルヴィルの小説「白鯨」に登場するコーヒー好きの船乗りスターバック。


 さて、このスターバックス、1971年にシアトルのパーク・プレイス・マーケットに第1号店が開店したことから歴史は始まる。その店はしかし、11年後に現スターバックスの辣腕会長兼世界戦略チーフのハワード・シュルツが経営参加するまでは、どこにでもあるありふれたコーヒー屋のひとつに過ぎなかった。


 入社翌年の83年にイタリアに赴き、ミラノでエスプレッソ・バーが大人気なのを見たシュルツは即座に「これだ!」とヒザを打ち、帰国するや否や、他の経営陣を説得して“コーヒー・バー”をコンセプトとした新店をオープンさせた。しかし85年にシュルツはいったん退社して自身の会社を設立、87年に改めてスターバックス社を買い取っている。以後スターバックスの人気はぐんぐん上昇し、株式を上場した92年には全米で165店舗にまで増えている。


 翌93年シュルツは大型書店チェーンのバーンズ&ノーブルと提携し、ブック・ストアの中にコーヒー・ショップを設置するという斬新なアイデアを展開。その後もフラペチーノなどユニークなヒット商品を次々と開発し続ける。96年には海外店舗第1号店を東京にオープンし、日本にも瞬く間にスタバ・ブームを巻き起こした。そして2000年度の世界総売上げは、なんと22億ドル。店舗数は今年10月時点で4,700、日本では大阪で記念すべき300店舗目のオープンを祝ったばかり。将来は全世界で2万店舗が目標だと同社は語る。


 ところでスターバックス発祥の街シアトルには、どういうわけか、めったやたらとコーヒー・ショップがある。地元住民いわく、1年中雨が降っていることで有名なこの街、人々は表に出るわけにもいかず、必然的に室内でコーヒー片手に茶飲み話に花を咲かせるという文化が培われたらしい。加えて元々のんびりした土地柄ゆえに、エスプレッソやラテなど淹れるのに時間がかかり、なおかつ香りや味をじっくり楽しめるコーヒーが好まれるとのこと。その証拠にレンタル・ビデオ屋や洗車場にまでエスプレッソ・バーがあったり、ベンダー(屋台)にも必ずラテやモカが置いてある。こんなふうに街中からコーヒーのアロマが漂うなか、人々は驚くなかれ“マイ・カップ”を片手に出勤するのだ。さらにはシアトルに広がるワシントン湖の水質検査でカフェインが検出されたという話まであり、これにはさすがのシアトルっ子も驚いたらしい。


 というわけで、今度スターバックスに行くときは本場のシアトルっ子にならい、のんびり・ゆったりとした本来のコーヒー・ブレイクを過ごしてみては。


U.S. FrontLine2002年1/5号掲載
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