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ゴヤ
〜GOYA〜
アメリカンブランド こぼれ話 #10


 近年のアメリカに於けるヒスパニック人口(*1)の爆発的増加は誰もが知るところ。2000年の国勢調査ではアメリカ全人口2.8億人の12.5%に当たる3,500万人がヒスパニックだとの結果が出ている。

*1=「ヒスパニック」とはスペイン語圏(中南米諸国、カリブ海に浮かぶ島国のうちアメリカ準州プエルトリコ、キューバ、ドミニカ共和国など)の出身者及びその子孫の総称。いずれの国も旧宗主国スペインの影響を色濃く残した文化を持つ

 アメリカが移民の国であることももはや言うまでもないが、どの移民グループもアメリカに祖国の文化、特に食習慣を持ち込む。ヒスパニックも例外ではなく、3,500万人ものヒスパニック人口が日々スパニッシュ料理(*2)を調理し、食べている。そのための食材を提供しているのがスパニッシュ食品メーカーのゴヤ・フーズ・インクだ。*2=ヒスパニック料理とは言わない

 1886年、スペインに生まれたドン・プルデンシオ・ウナヌーは、16歳でカリブ海に浮かぶプエルトリコ島へと移住。30歳でビジネス・スクールに通うために今度はニューヨークへと移り、後にプエルトリコ出身のドーニャ・カロリナ・カサル・ヴァルデスと結婚。ところがニューヨークに移り住んだこの夫婦はスパニッシュ料理が恋しくてたまらず、他のヒスパニック移民たちも同様であることを知ると、スパニッシュ食品の輸入会社を興すことを思い立った。

 こうして1935年に設立されたのが、現在のゴヤ・フーズ・インクの前身であるウナヌー・インク。当初はスペインのオリーブオイルなどを輸入販売していた。翌1936年には、スペインの画家フランシスコ・ゴヤにちなんだブランド名“GOYA”を導入し、以後、アメリカのヒスパニック人口の増加と共に成長を続けた。1961年に社名をゴヤ・フーズ・インクに改め、1974年には本社をニューヨークからニュージャージー州に移転。現在はウナヌーの息子と孫たちによって経営されており、アメリカ国内7ヶ所だけではなくプエルトリコやスペインにも配送センターを持ち、ヒスパニック経営の食品会社としては全米最大の規模を誇っている。

 現在のゴヤの商品ラインナップは豆31種類、米15種類を筆頭に調味料、サルサ、タコやイカなど魚介類のカン詰、マンゴやパパイヤのジュースまで1,000種を超えている。しかし商品構成にはそれなりの苦労があるという。なぜなら同じヒスパニック国でも南米大陸の内陸部と沿岸部、カリブ海ではそれぞれ気候風土や穫れる食材が違い、従ってお互いに似て非なる食文化を持つからだ。例えば、豆を多量を食べるという共通項はあっても、ベネズエラでは黒豆、メキシコ北部ではインゲン豆、プエルトリコではブラックアイ豆といった具合。そしてそれぞれの国の出身者は、アメリカに移住してからも祖国での食習慣を守ろうとする。これが同社が31種類もの豆をそろえている理由だ。

 このように出身国独自の文化にこだわるヒスパニックだが、アメリカ生まれの二世、三世はスパニッシュ料理を食生活の基本にしながらも、アメリカナイズされたライフスタイルを持つ。こういった層には調理の簡単な新製品が必要となり、同社は数年前にお湯を注ぐだけで食べられるカップ入りライス&ビーンズを開発した。

 同じ民族文化グループでありながら様々な背景を持ち、加えて世代間のギャップも大きなヒスパニック・グループ。その食卓をゴヤはこれからもスパイシー&カラフルに彩り、ヒスパニック・パワーのスタミナ源を培っていくことだろう。


U.S. FrontLine2002年10/20号掲載
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