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コカ・コーラ(1)
〜Coca-Cola〜
アメリカンブランド こぼれ話 #16


 1886年、ジョージア州アトランタにあるドラッグストアの薬剤師ジョン・ペンバートンは、頭痛の新薬を開発しようと自宅の裏庭に鍋を持ち出し、実験に勤しんでいた。鍋の中身は水、砂糖、南米で採れるコカの葉、西アフリカ原産のコーラの実など。これらを煮詰めた茶色いシロップを、ペンバートンは薬局で売り出した。価格は1杯50セント。商品名は、薬局の経理担当者の提案により、原料のコカ(coca)とコーラ(kola)をつなぎ、ただしkolaのKをCに換えて「Coca-Cola」とした。

 原料のコカの葉は、言わずと知れた麻薬コカインの原料で、コーラの実にはカフェインが含まれている。つまり、当初の“頭痛薬コカコーラ”は、相当に刺激の強い飲み物だったと思われる。

 当時のドラッグストアには、ソーダ水やアイスクリームを出すカウンター、ソーダファウンテンもあった。ある日、頭痛薬コカコーラを買った客が、味の濃さに辟易したためか、「水を入れて薄めてくれ」とソーダファウンテンの店員に頼んだ。ところが店員はなぜか炭酸水で割ってしまい、するとこれが予想外の美味しさだった。後に世界を席巻する“清涼飲料水コカ・コーラ”誕生の瞬間だった。

 しかし、コカ・コーラ発売初年度の売り上げはわずか50ドルにしかならず、翌年、ペンバートンはコーラ関連の権利を売却してしまう。密かにコカ・コーラの可能性に目を付けて権利を買い取った薬業者エイサ・G・キャンドラーは、1892年にコカ・コーラ・カンパニーを設立。以後、見事なビジネス手腕でコカ・コーラを全国規模のヒット商品に仕立て上げた。

 コカ・コーラが売れるにつれ、麻薬コカインの成分が含まれていることに対する非難が強まっていった。そこでキャンドラーは、コカ・コーラ独自のフレイバーを保つためにコカの葉を使いながらも、コカイン成分を抜くことに成功した。ちなみに現在、米国で医療用を除けばコカを合法的に使用できるのはコカ・コーラ社だけだと言われている。(*)

 コカ・コーラのレシピ(原料と、その配分)がトップシークレットであることは有名な話で、開発当時から現在に至るまで「レシピはアトランタ本社の金庫にあり、2人の幹部しかアクセスできない」といった噂には事欠かない。実際、コカ・コーラの成分表には、甘みのための砂糖やコーンシロップ、着色のためのカラメルなどは表示されているが、肝心の風味は「ナチュラル・フレイバー」とだけ記されており、原料は明かされていない。

 この秘密のレシピは、実は1985年にも一度変更されている。ライバルであるペプシを打ち負かすために、微妙にレシピを変えた「ニュー・コカ・コーラ」が大々的に売り出されたのだ。しかし、発売前のテストでは好評だったニュー・コカ・コーラは、なぜかさっぱり売れなかった。その理由を「人には馴染みの深いモノに執着する傾向があるため」と分析した識者もいる。とにかく、窮地に立ったコカ・コーラ社は数ヶ月後に元のレシピを復活させ、「コカ・コーラ・クラシック」として再発売した。現在も缶やボトルのロゴには小さく「クラシック」と書き添えられている。

 いずれにしても、秘密は解き明かしてみたくなるのが人の常。これまで多くの人間がレシピを解明しようと試みた結果、一般的にはオレンジ、レモン、バニラ、ナツメグ、シナモンなどが使われていると言われている。しかし、その真偽は已然として謎のままだ。

*マイアミ・ヘラルド紙によれば、米国のコカ取り扱い会社がコカの葉を輸入し、コカ・コーラ社のためにコカイン成分の含まれていない抽出液を製造しているという。ただし、コカ・コーラ社はコカに関してはノーコメント


U.S. FrontLine2003年11/5号掲載
禁転載




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