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バービー(2)
〜Barbie〜
アメリカンブランド こぼれ話 #19


 バービー人形には大きく分けて2つのグループがある。バービー本来の子ども向けのもので、通称「ピンクボックス」と呼ばれるシリーズ。これはピンク色の紙箱に入って売られていることに由来する。他方は大人のコレクター向け「コレクティブル」シリーズだ。

 ピンクボックスは衣装や付属の小物によるが、通常は15〜25ドル程度で売られている。対して製造数限定のコレクティブルは、ピンクボックスよりも格段に凝った豪華な衣装をまとっており、新作は40〜250ドル程度で店頭に並ぶ。ただし、いったんコレクター市場に回されると、希少なものなら数百ドル、なかには1,000ドルを超えて売買されるものすらある。

 コレクティブルは1972年の発売開始以来、あらゆる種類が世に出されてきた。クリスチャン・ディオールやカルバン・クラインなどのデザイナーズ・ドレスを着たもの。オードリー・ヘップバーン、シェールなどセレブを模したもの。世界各国の民族衣装をまとったもの。最近ではファッション雑誌の記者やメイクアップ・アーティストなど、女性が憧れる職業シリーズもある。

 いずれもピンクボックスのバービーに比べると大人っぽい顔立ちで、衣装やヘアスタイルも洗練されている。大人の女性に「こんなスタイルを自分もしてみたい!」と思わせるだけの魅力が充分にあり、それが熱心なコレクターを生む理由だ。

 コレクターの中には初期のバービーを集めるヴィンテージ派もいる。1959年に発売された第一号バービーは、コンディションの良いNRFBならば1万ドルはすると言われている。ちなみにNRFBとはコレクター用語で、Never Removed From Boxの略。箱から一度も出したことのないバービーは、箱なしや、あっても開けた形跡のあるものとは比較にならない高値で取引されるのだ。

 ヴィンテージ・バービーにはひとつ問題がある。当時、人形の材料として使われていたプラスチック素材は、年数を経ると成分が分離することが後に判明。1960年代初期のバービーは現在、脂が浮き出たように顔がテカっており、数十年後には分解してしまうと言われている。

 いずれにせよ、ヴィンテージおよびそのリメイク、ピンクボックス、コレクティブルを合わせると膨大な種類のバービーが発売されており、全てを集めることは金銭的にも、展示スペースに於いても、もはや不可能。ベテラン・コレクターからは初心者に向けて、「時代や、衣装の色など、自分なりのテーマを決め、それに沿ったコレクションをするように」とのアドバイスが出されている。「そうでないと、パートナー(夫、恋人)の怒りを買ってしまうでしょう」とのことだ。

 このように、小さな女の子はピンクボックス、大人はコレクティブルと、女性は幾つになってもバービーに夢中だ。しかし、玩具業界で「tween(トウィーン)」と呼ばれる8歳〜12歳の少女たちは、もはや上品なバービーに飽き足らなくなっている。一昨年、他社から売り出されたクラブ系ファッションの「ブラッツ」人形が大ヒットしたのだ。バービーの発売元マテル社も、慌てて同様の「マイ・シーン・バービー」シリーズを発売した。

 先発のブラッツほどではないにせよ、濃いメイクと刺激的なファッションに身を包んだマイ・シーン・バービーに子どもたちはご満悦だが、母親たちは眉をひそめている。45年もの長きに渡って「美の基準」であったバービーにも、いよいよ本格的なジェネレーションギャップ現象が起き始めている。


U.S. FrontLine2004年1/20号掲載
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