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ヘインズ
〜Hanes〜
アメリカンブランド こぼれ話 #21


 世界最大の衣料品メーカーは、3枚ワンパック10ドル程度の白いTシャツで知られるヘインズだ。Tシャツの他にも、やはりパック販売のソックスやブリーフはアメリカ中のドラッグストアや、Kマート、ウォルマートなどのディスカウントストアで売られている。今回はアメリカの庶民の生活に根差したブランド、ヘインズのお話。


 ヘインズ発祥の地は、アメリカ南部のノースカロライナ州。昔、タバコとコットンの栽培で栄えた場所だ。1800年代半ばに同州に生まれたJ.ウェズリーとプレザントのヘインズ兄弟も、まずはタバコ会社を設立した。ところが経営に失敗し、兄弟は会社を手放してしまう。これが1900年のことだった。


 その後、ふたりは共にコットン業界に転身することを決めたものの、なぜか別々の会社を興している。タバコ会社を失った時に仲たがいしたのか、それとも何か他の理由があったのか、それは明かされていない。


 1901年にまず兄のJ.ウェズリーが靴下製造会社を、翌1902年には弟のプレザントが男性用下着製造会社を相次いで設立した。


 下着会社は、一見、女性のミニワンピースのようなデザインの男性用下着「ユニオン・スーツ」を1913年に売り出し、ヒットさせた。32年には現在のブリーフの原形となった「スポーツ」と呼ばれる下着を開発。靴下会社も1938年にナイロンが発明されると、いち早くナイロン・ストッキングの製造に着手。1950年代に入ると、ふくらはぎに縫い目のないシームレス・ストッキングを売り出し、ファッション・シーンに旋風を巻き起こした。


 このようにそれぞれ着実に成長を続けた二社は、さらなる事業拡大を目指して1965年に合併し、ヘインズ・コーポレーションとなった。


 ところでTシャツとは周知のように、そもそもは下着だった。第一次世界大戦時にヨーロッパの兵士が着ていたコットン製の快適な下着がアメリカでも作られ始め、その形から「Tシャツ」と名付けられた。1920年代には辞書にも記載される言葉となった。


 当初、下着であるTシャツ一枚で人前に出ることは常識では考えられなかった。しかし1950年代になるとマーロン・ブランド、ジェームス・ディーンといった人気俳優がTシャツやジーンズ姿でテレビや映画に出演し始め、Tシャツはインナー(下着)であるであると同時に、アウター(上に着るもの)としても認められるようになった。


 時を経て1970年代。若者たちのアイドルはもはやジェームズ・ディーンではなく、ジミ・ヘンドリックス、グレイトフル・デッドといったヒッピー・ファッションのロック・バンドだった。ロック・ファンたちはTシャツに派手なパターンをプリントしたり、極彩色の絞り染めを施したりしたが、その作業に堪えるように作られたのが、ヘインズの「ビーフィーTシャツ」だ。「ビーフ(牛)のように肉厚でしっかりしている」というのがネーミングの由来。このビーフィーTは現在もへインズの人気商品。他ブランドのロゴ入りTシャツも、タグを見ればビーフィーTだということがよくある。


 ところが、Tシャツの首の部分についてるタグは、実はかなり評判が悪い。ヘインズの調査によると、男性の3分の2はタグを不快だと言い、半数近くは引きちぎるか、切り落としているとのこと。そこでヘインズは、タグの代わりにヘインズの赤いロゴを熱転写で首すじ部分に印刷した「タグレスTシャツ」を2002年に販売開始した。


 そのタグレスのCMに出演しているのは、元NBAのスーパースター、マイケル・ジョーダン。ジョーダンはヘインズ発祥の地ノースカロライナの大学からNBAに進み、1989年にヘインズと契約して、現在も同社のイメージキャラクターを努めている。


 たかがTシャツ、されどTシャツ。エピソードは尽きない。



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