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(初掲 2004年7月) |
■シドニー・メヒュー(28歳) エスニック:アフリカ人/ハイチ人/アメリカ人(*1) 職業:マルチメディア・スペシャリスト 居住地:ニューヨーク 滞米26年 黒人コミュニティーに暮らしながら、移民だといっていじめられた子ども時代。アメリカ黒人文化に同化していった思春期。その頃から芽生え始めた白人社会に対する不信感。 2歳のときに、カリブ海のハイチからニューヨークに一家で移住した。父はハイチでアートギャラリーを経営していて、ニューヨークでも同じようにアートの仕事を始めたんだ。だから最初はアーティストの多いグリニッチビレッジという地区に住んだ。5歳になってから黒人地区ハーレムに引っ越したんだ。 子ども心に驚いたよ。グリニッチビレッジは人種も混じっていたし、とことん貧乏な人はいなかった。よく「ハイチは西半球でもっとも貧しい国」だと言われるけれど、僕の一家はハイチでは富裕層だったせいもあって、ハーレムの貧しさはショックだった。 ところが僕はハーレムで差別された。ハーレムはアフリカンアメリカンの街だよね。同じ黒人でも彼らはカリブ海やアフリカからの移民をバカにするんだよ。子どもがハイチ人をからかう有名なフレーズがあってね、ひとつは「ハイチ人はエイズ!」、もうひとつは「HBO!」だ。HBOってテレビ局のことじゃないよ、「Hatian Body Odor」の略で、つまり「ハイチ人は体臭がくさい」ってことさ。 でも、10歳になる前からヒップホップを聴き始め、それからはアメリカ黒人の若者文化にどんどん馴染んでいったよ。今では自分自身のヒップホップ・マルチメディア・プロダクション会社を持っているほどだ。 それはさておき、高校生の頃に父が白人富裕層の多い地区でアートギャラリーを始めたことから、白人の友だちが一人できた。ギャラリーの近所に住むリッチなユダヤ系の少年で、よく一緒に遊んだものさ。でも彼はハーレムには絶対に来なかった。「遊びに来いよ」と誘っても、いろいろ言い訳をしてね。本当は怖がってたんだよ。それに自分の都合のいい時だけ僕と遊び、あとは白人の友だちとツルんでた。たぶん「黒人と付き合うことがクールだ」と思ってたんだろうな。やつのこと、当時は親友だと思ってたけど、今となってはそうは言えないよ。 それから両親は郊外に家を買って引っ越したけれど、僕は今もハーレムにいる。ここで自分の会社を成功させたいんだ。中央の大手メディアに就職しない理由? 白人管理社会が嫌いだからだよ。 ■白人に差別された経験なし 白人社会で就職差別された経験があるのかって? ……ないよ。大学を出てからも就職したことはないからね(苦笑)。 なのに白人管理社会を嫌う理由? これまでにたくさんの差別事件を見てきた。たとえばセントラルパーク・ジョガー事件(*2)、あれは僕にも起こり得ることなんだよ。たとえ僕自身は差別された体験はなくとも、感じるんだよ、自分で自分を守っておかないと、いつかは自分にも起こるって。 実を言うと大学生の頃、ハーレムで夜、道を歩いていて強盗に遭い、脚を撃たれたことがあるんだ。犯人は黒人だった。 銃で撃たれるって、かなりショックな出来事なんだよ。あれで人生感が変わった。以後、フラフラするのを止めてまじめになったよ(笑)。それでも、やっぱり白人の多いダウンタウンよりも、ハーレムのほうが居心地よく感じるんだよ。 *1 一般的には「ハイチ系アメリカ人」と称される出自だが、「すべての黒人にはアフリカの血が流れている」「ハイチで生まれた」ということから、この人物はこのように表記した なお、本文中の「アフリカンアメリカン」とは約400年前にアフリカから北米に強制連行された黒人奴隷の子孫を指し、「アフリカからの移民」とは近年になってアフリカ諸国から北米に移住した者を指す。「カリブ海からの移民」とはアフリカからカリブ海諸島に奴隷として連行された黒人の子孫で、近年になって北米に移住した者を指す。 *2 セントラルパーク・ジョガー事件=1989年にニューヨークのセントラルパークでジョギング中の白人女性が殴打レイプされて重症を負い、5人の黒人とラティーノの少年が逮捕された。14年後の2003年に真犯人が自白し、それがDNA鑑定によって裏付けられ、すでに成人となっていた5人は釈放された ■見えない境界線〜人種差別 Nowインタビュー: 1)イレイニー ドミニカ系アメリカ人(ラティーノ) 2)シドニー アフリカ人/ハイチ人/アメリカ人 3)ヴィンセント + アントワネット プエルトリコ系+アフリカンアメリカン + アフリカンアメリカン 4)エリカ + マーク 日本人 + アフリカンアメリカン 5)チャーリー 東アジア系移民 6)ニコラス スロバキア人移民 ※ U.S.FrontLine その他の記事 |
U.S. FrontLine No.219(2004/07/第1週号)掲載記事
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文・写真:堂本かおる