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ラティーノ!!
米国最大のマイノリティ

6)ラテン・パワー炸裂! 移民事情


 さて、ここまではラティーノ文化を明るく楽しく紹介してきたが、ここではラティーノの“移民”としての側面を、じっくりと考えてみよう。

 現在、米国のラティーノ人口3,880万人(米国商務省・国勢調査局による2002年7月時点での推定)。 加えて、移民局は全米におよそ700万人の不法移民が存在し、その多くはメキシコ人であると見積もっている。合法、不法、合わせて、なぜこれほど膨大な数のラティーノが米国に移民としてやってくるのだろう。






●経済移民と政治難民


 米国最初のラティーノは“移民”ではなかった。現在のテキサス州、カリフォルニア州、ニューメキシコ州、アリゾナ州は、そもそもメキシコの一部だった。それを米国が、おもにメキシコ戦争(1846〜48年)によって奪取。そこに暮らしていたメキシコ人は米国市民権を与えられ、“アメリカ人”となった。


 メキシコ側に残った者にとっては、親類縁者がいて、なおかつ地続きの米国は、もっとも出稼ぎ移住しやすい場所となり、現在に至るまで移民は絶えない。他のラテン諸国からの移民も1940年代頃より増え始めた。


 ラティーノ諸国の多くは経済的に立ち後れており、ラティーノ移民のほとんどは、より良い生活を求めてやって来る経済移民だ。プエルトリコはアメリカ準州なので、島民は手続きなしに島と本土を往復できるが、他国からの移民は当然ビザが必要だ。


 多くの移民希望者は母国で貧困の中に生まれ、高学歴も特殊技術も持たないため、雇用ベースの就労ビザを取ることはできない。そこで、家族がすでに永住権・市民権を持っている者は“家族による呼び寄せ”として永住権を申請をするが、条件が厳しい。“呼び寄せ”の元となる家族がいない者の中には、市民権取得者と偽装結婚をする者もいる。しかし、大多数の移民希望者には合法なビザを取る手だてはなく、そこで不法移民として国境を渡ることになる。


 中南米人ならメキシコと米国の国境を流れるリオ・グランデ川を泳いで渡ったり、“コヨーテ”と呼ばれる違法な移民斡旋業者に大金を払い、トラックの荷台に隠れて国境の検問所を突破する。カリブ海からの場合は、観光名目で飛行機に乗ってやってくるが、やはり斡旋業者によるボートに乗ることもある。いずれも国境警備隊や入国審査官に捕まって本国へ送還されたり、最悪のケースでは川や海で溺死、トラックの中で窒息死という悲惨な事故もある。これらの事例は、ここまでしてでも米国に来なければならないほどの生活を、彼らが本国で強いられていることの証拠だろう。


 また、ラテン諸国には政情不安な国も多く、政治難民としてアメリカにやって来る移民もいる。そのもっとも有名かつ大規模な例はキューバだ。1959年にフィデル・カストロがキューバ革命を起こして以来、約80万人がアメリカに亡命したと言われている。1970年代から90年代前半にかけては、やはり政情不安だった中米のエルサルバドル、ニカラグアからの難民があった。





●生活:では、ここ米国で、ラティーノはいったいどんな暮らしをしているのだろう。


■居住地


 出身国によって、かなり変わってくる。メキシコ系はカリフォルニア州、テキサス州、アリゾナ州、ニュー・メキシコ州と、メキシコと地続きの州に多い。メキシコ以外の中南米諸国出身者は、カリフォルニア州、ニューヨーク州、フロリダ州などに分散している。
 カリブ海のプエルトリコ、ドミニカ共和国からの移民はニューヨーク州に圧倒的に多く、隣接するニュージャージー州や、カリブ海からもっとも近いフロリダ州にもコミュニティーを持つ。キューバ系はフロリダ州に集中。また、中西部ではイリノイ州が例外的にラティーノの多い州となっている。


■職業


 サービス業、作業員、熟練工などが多く、専門職は少ない。平均世帯所得は約33万ドルで、非ヒスパニック白人の約45万ドルに比べるとかなり低いことが分かる。貧困家庭の割合は20%。 
 不法移民の職業に関してのデータはないが、いわゆる“3K仕事”やレストランのバスボーイ(下働き)などが圧倒的多数で、女性の場合はメイドやナニーといったものも多い。雇用主は相手が違法移民であることを承知で、最低賃金以下しか払わないこともある。不法移民であれば、健康保険や年金はもちろんなく、まさに身体が資本となる。
 しかし、米国の経済の繁栄は、こういった移民労働力の上に成り立っていると言える。


■教育


 100人当たりの大卒者の数は、非ヒスパニック白人の28人に対して、11人。
 アメリカにやってきたばかりでスペイン語しか話せない子どもには英語教育やバイリンガル教育が必要であり、これは現在、アメリカの教育現場が直面している大きな問題のひとつ。


■政治


 人口では黒人を追い抜き、これからも増え続けると予想されているラティーノだが、移民は市民権を取らない限りは選挙で投票できない。米国の選挙民は自分と同じ人種/エスニックの候補者に投票する傾向が強く、従って全国区で活躍するラティーノ政治家の数は少ない。しかし、ラティーノ・コミュニティーから圧倒的な支持を得て活躍する市会議員レベルの政治家は既に数多い。
 一般に裕福な白人は共和党支持、マイノリティは民主党支持の率が高いが、ラティーノは黒人に比べると共和党支持者が多い。このことから、共和党候補者にとっても、ラティーノは重要な票田となりつつある。





●最後に


 米国最大のマイノリティ・グループとなったラティーノは、しかし、なんともフレキシブルな集団でもある。なぜならラティーノ・グループは、スペイン語という緩やかな括りはあるものの、20ヶ国以上からの出身者の集合体。出身国の文化、政治体制や社会情勢によって個々人の考え方やアイデンティティ、必要とするものが異なる。これが、ラティーノが今まで一個の集団としての大きな存在感を見せることがなかった理由だ。
 しかし「米国最大のマイノリティ・グループになった」という事実は、「すべてのラティーノが連帯すれば、ここ米国で確固たる地位と、豊かな将来を築くことができるかもしれない」という、新たな意識を人々にもたらした。
 人口の増加により、数としてのパワーを得、なおかつ、未来に対する強いモチベーションを持った今、ラティーノのパワーは、まさにフル・スロットルだ。
 

●米国のエスニック別構成比

 白人    69%
 ラティーノ 13.5%
 黒人    12.7%
 アジア系  12.1

(人口の単位は100万人 2001年7月現在)



●米国に住むラティーノの出身国別構成比

メキシコ 58.5%
プエルトリコ 9.6%
キューバ 3.5%
ドミニカ共和国 2.2%
その他の中米諸国 4.8%
その他の南米諸国 3.8%
スペイン 0.3%
その他 17.3%




U.S. FrontLine No.190(2003/07/20号)掲載記事
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