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ヒップホップの真実
貧困と犯罪、そして未来


インタビュー:スリム
<サウスブロンクスに生まれて>


Q:今、いくつ? どこで生まれて、育ったの?


 14歳。サウスブロンクスで生まれて、今までずっとプロジェクト(低所得者用公団アパート)で暮らしている。母さんとばあちゃんに育てられたけど、7年前からは母さんと、母さんの再婚相手のD, Moeと暮らしている。実の父さんとは暮らしたことがない。でも、父さんも恋人と一緒にブロンクスに住んでいて、今も毎週末に会ってるよ。ぼくの友だちも、誰も父親とは暮らしてない。


スリム


Q:お母さんは、どんな風にあなたを育ててくれたの?


 僕が小さな頃、母さんはひとりで母親と父親役の両方をやってくれた。母さんにウソはついたことがない。いつも「ウソはだめよ」って言われてるから。


Q:もし両親が揃っていたら、どんな子ども時代だったか想像できる?


 幸せな大家族って、きっと楽しくてクールだと思う。だけど物事は思うようにならないこともある。別れてしまう両親もいるんだ。


Q:プロジェクトで育つってどんな感じ?


 大変だよ。ドラッグとギャングだらけだから。だけど、どう暮らすかは自分次第だ。楽しいことを見つけるか、惨めに落ち込むか。


Q:ギャングに仲間になるよう誘われたことは?


 ないよ。僕は考えなしについていくタイプじゃないからね。多分、父親のいない子、両親共にいない子が「ギャングは自分の面倒を見てくれる」と思って、愛情を求めてギャングに入ってしまうんだ。ギャングのメンバーが家族になるんだよ。


Q:クラスメートにギャングはいる?


 学校でギャングのことは禁句だから知らない。生徒がギャングメンバーだとバレたら通報されて逮捕されるから。ただ、いつも同じ色の服を着てくるヤツはギャングだって推測できちゃうけど。青を着ていればクリップス、赤ならブラッズ(*)だ。*ライバル同士のギャング・グループ


Q:放課後は何をしているの?


 近所にコミュニティーセンターがあって、放課後はそこに行くんだ。バスケットボールとかするんだけど、僕たちをストリートから引き離して、ドラッグを売ったり、ギャングと関わったりすることを防いでくれる。


Q:警察と関わったことがある?


 従兄と一緒に友だちの誕生パーティーに行こうとプロジェクトを出て歩き始めたところを警官に止められた。従兄は身体検査をされたけど、パーティーに持っていくお菓子しか出てこなかった。警官が逮捕するつもりだった屋上の密売人(*)が茶色のシャツを着てたんだけど、従兄も茶色を着てたから間違えられたんだ。ちょうど密売人がビルの外に出てきて逮捕されて、それで従兄は解放された。
 こんなことがこれまでに3、4回あった。僕たちがプロジェクトに住んでいるというだけで、警官は「あいつはドラッグの密売人か、ギャングだろう」って疑うんだ。

*プロジェクトの屋上は密売場所として使われることが多い。2004年1月にニューヨーク市ブルックリン区のプロジェクトで、同じ棟にある友人宅への近道として屋上に上がった黒人少年が捜査中の警官に撃たれて死亡する事件があった


Q:D.Moeと暮らすことは、あなたに良い影響を及ぼしている?


 ああ。なにか問題が起これば彼に話す。D.Moe は非難はせず、解決策を教えてくれて、「次は気をつけろよ」って言うんだ。普通の親は怒鳴ったり、叫んだりするけど、はそんなことはしない。彼はストリートを知っているから、問題を理解できるんだ。



■ヒップホップ


Q:好きなラッパーは?


 2パックとナズ。2パックは警官の横暴、貧困、ホームレス問題、黒人の苦しみをラップする。
 ほとんどの子どもは学校が嫌いだろう? だけどナズは知識の大切さや学校についてラップする。ナズは自分に本当に起こったことや、真実だけをラップするんだ。


Q:2パックはドラッグや女性への暴行などで何度も逮捕されたけど?


 2パックは女性を暴行したりはしない。彼の「親愛なるママ」っていう曲、聴いたことある? 彼は「人間は女性から生まれてくる」という理由で女性を尊敬していたんだ。ギャングだったからドラッグはやっただろうけどね。それでも彼は素晴らしいアーティスト、詩人だったんだ。


Q:多くのラッパーが、自分のコミュニティーを誇るかのように地元でビデオのロケをし、幼なじみをたくさん出演させているけど、すでに売れっ子でリッチになったラッパーは、もう地元には住んでいないよね?


 あー、それは……、何て言えばいいのかな……。たとえばジェイ・Z(*)はブルックリンのプロジェクトの出身だ。今はもうあそこには住んでいないけど、そこに住む友だちと今でもツルんでる。リッチでも貧乏でも関係なく付き合う、それが本当の友だちなんだ。


*ジェイーZJay-Z
1970年生まれ。ニューヨーク市ブルックリン区のプロジェクトでシングルマザーに育てられる。元ドラッグ密売人。ヒップホップ業界全体に大きな影響力を持つドン的存在だが、今年に入ってラッパーとしての引退を宣言、今後の動向が注目されている。恋人はR&B界のスーパースターのビヨンセで、欲しいものを全て手中に収めた人物として語られる



Q:子どもたちは元ドラッグ密売人のギャングスタラッパーに憧れるけれど、実際に人気ラッパーになれるのは、ほんの一握りの人よね?


 たとえ有名になれなくても、ラップすることで夢を持ち続けられる。大金を稼いでデカい車を買おう、とか。ドラッグで稼ぐあぶく銭なんてすぐに使い果たしてしまうと思うけど、ヒップホップでちゃんと働いて稼いだお金なら貯金もするだろうし。


Q:暴力描写があったり、超セクシーな衣装の女性がヒップを振りながら踊っていたりするビデオを子どもたちも見ているわけだけど、それをどう思う?


 僕自身はビデオで銃は見せるべきじゃないと思う。子どもは「銃を手に入れたら、自分もあんな風にリッチになれるかも」って誤解する。先生なんかの代わりに、人殺しをロールモデルだと思ってしまう。
 でも、すべてのラッパーをコントロールすることはできないし、それぞれのラッパーが自分のやってることに責任を持つべきなんだ。一部のラッパーのために、ヒップホップ全体を非難するべきじゃないと思う。小さな子どもにビデオを見せるかどうか、それは親の責任だ。


Q:ポジティブな内容をラップする、いわゆる「コンシャス・ラッパー」は好き?


 タリブ・クウェリ(*)は好きだな。彼は罵り言葉も使わないし。でも、僕の友人は誰もそういったラッパーを聞かない。50セント、ジャ・ルール、ジャダキスとか、ネガティブなメッセージをラップするラッパーしか聞かない。


*タリブ・クウェリTalib Kweli
生年不祥、ニューヨーク市ブルックリン区生まれ。1998年に高校の同級生であり、現在は俳優兼ラッパーとして活躍しているモス・デフと共に「ブラック・スター」名義でアルバムをリリース。ギャングスタ・ラップとはまったく違う、ポジティブなメッセージを含んだ「コンシャス・ラップ」として広く認められた



Q:50セントについてどう思う?


 僕は50セントのファンなんだ。だけど彼のリリックは暴力的だ。僕が知る限り、彼のリリックで暴力的でないのは1曲だけだね。
 もし君がドラッグ、セックス、暴力に囲まれて育ったら、それが君の人生なんだ。でも、最悪なコンディションからポジティブなモノを生み出すことも出来るんだよ。ジェイ・Zの「99プロブレム」のビデオのラストシーンを知ってるだろう? ジェイ・Zが撃たれて死ぬシーン。あれは彼が演じてきた「ジェイ・Z」というギャングの終焉と、「ショーン・カーター」(ジェイ・Zの本名)の誕生を表しているんだ。彼も昔はドラッグを売ったりしてたけど、もうそんなことはしない。今はボジティブなことをしてるんだ。



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U.S. FrontLine No.241(2004年12月第3週号)掲載記事



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